「あの男がぼくを刺し殺した」

 2度も男に脅かされたロランはそれ以来、外出ができなくなった。学校には行くが帰ってくると、家にこもりっきりだ。男は近くに住んでいると思われ、ロランは「いつまた、あの男が来るんじゃないかと思うと怖い」とおびえる。

 夜、寝ていても突然、悲鳴を上げて飛び起きる。

「ロランどうしたの?」。両親が声をかけるとロランは言った。

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「あのおじさんがやってきて、ナイフでぼくを刺し殺したんだ」と、涙を流した。こういう夜が続いた。

 苦しむロランを支援者は病院に連れて行った。

「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」。診断書の病名にはこう明記され、こう続けられていた。

〈近所の男性に暴力をふるわれたり、つきまとわれたりされたあとから夜寝られない、中途覚醒しパニックになって騒ぐ、昼間も恐怖に襲われパニックになる時がある、などの症状が続いています。該当の男性からしばらく遠ざけない限り治癒しないと思われます〉

 子どもの心に深い「外傷」が刻まれ、まるで血を流し続けるように、不安とパニックに苦しむ状況を尻目に、警察のその後の動きは鈍かった。

 そもそも、現場の公園には地元の自治会が設置した防犯カメラがあり、7月時点での暴行場面もそこに映っていたはずだ。だが1ヵ月ごとに上書きされるため、2回目の事案を受けて警察が捜査を始めた時点ではもう映像は消去されていたとみられる。

 事情聴取も進まず、本署に父子が呼ばれたのは3週間以上経ってからだった。加えて、教育関係者の反応も鈍かった。ロランはショックから翌日学校を休み、母親は学校に事件を報告し、学校は事件発生を早くから知っていたはずだ。

「民族差別による暴力を受け、心に傷を負った外国人の子どもにどんなケアをしているのか」

 2番目の事案発生から2週間が経過したころ、わたしは川口市の教育委員会と小学校の校長に聞いてみたが、両者とも「事件は知っている」としながらも「見守っている」と語るのみだった。