「前の揺れもこんなか?」「前のよりも大きい」「外に避難するぞ」

十六日(土)一時二十五分 熊本市

 自宅に戻った丸野は、微睡(まどろ)みの中で長い一日をふりかえっていた。

 幸運にも朝一番の便をキャンセル待ちで確保でき、東京から本社に戻ったのが十五日午前十時過ぎ。輪転機は一日中回っている状態だった。

「益城町 震度7 M6・5 2人死亡 けが200人超 県内各地強い揺れ」(十五日朝刊)

ADVERTISEMENT

「9人死亡 860人負傷 熊本激震 避難4万人超」(十五日号外)

「熊本地震 9人死亡、860人負傷 避難4万人超、救助続く 平成28年熊本地震」(十五日夕刊)

 朝刊の次は号外を一万部刷り、さらに続けて夕刊へ。編集局はノンストップで紙面を作り続けた。今頃、輪転機は十六日朝刊を刷っているところだろう。地元紙の強みであるスタートダッシュを活かし、他紙を圧倒する仔細な情報を詰め込むことができた。余震が続くなかでの取材で、現場の疲労は溜まる一方だ。明日以降は、落ち着いてくると良いのだが……。丸野はようやく眠りに落ちた。

 一時二十五分だった。突き上げるような揺れがきた。さらに激しい横揺れ。丸野は咄嗟に布団を頭から被った。激しい揺れが続いている。

 隣室で寝ていた息子も起きてきた。「前の揺れもこんなか?」「前のよりも大きい」「外に避難するぞ」

 着の身着のまま丸野は家の外へ飛び出した。近くの広場には人が集まっている。辺りは騒がしい。

 丸野の携帯が鳴った。編集局にいる編集一部長の末廣からだ。

「大変です! 地震で輪転機が止まりました。まだ三分の二は刷り上がっていません。印刷局は外に避難しています。どうしましょうか」

「今からすぐに行く」。丸野は着替えるため、一旦、家に引き返した。

二時五分 熊本市・本社

 十六日朝刊のセンター長だった山口和也(56)は、つい一時間ほど前にあとにしたはずの編集局に向かって車を飛ばしていた。

 山口の自宅は、市内のマンションの十二階。帰宅して、妻が作ってくれた夜食を食べようとした瞬間に地震が起こった。本棚と食器棚が倒壊。ささやかな趣味として蒐集していた陶磁器もすべて割れてしまった。幸い、建物と家族は無事だったものの余震は続いている。自宅に残してきた家族が気がかりだったが、急いで引き返していた。

 山口は主に政経畑を歩み、県政や市政に精通している。デスクに昇進して以降は、社会部にも所属。社会部長も務めた。しかし、百戦錬磨の山口でも、今回の地震は記者生活で経験したことのない緊急事態だと感じている。