「おれだよ……」
トルコの空港から届いた父のかすれた声。それは、家族が引き裂かれた現実を決定づける一報だった。父は強制送還され、少年は夢を手放す。プロサッカー選手を目指していた15歳のディヤルに訪れたのは、「帰国」という選択だった。
日本で育ったクルド人少年の人生はなぜここまで変わってしまったのか。ジャーナリスト・池尾伸一の新刊『仮放免の子どもたち 「日本人ファースト」の標的』(講談社)より、一部を抜粋・編集してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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職員に押さえつけられ、馬乗りに⋯
父親によると、19日に収容された後、20日の午前3時に起こされた。トルコに送還するのだという。父親が「子どもも妻もいるんだ。帰れるわけないでしょう」と言った瞬間、職員約10人が四方八方からスリマンを押さえつけ、馬乗りになった。そして、電気ショックのような鋭い衝撃を受けると、ぐったりしてしまった。「手錠もかけられ、飛行機に無理やり乗せられたんだ」と父親は話した。
「いつも元気な父が、あんな弱々しい声で……。よっぽどひどいことをされたんだと思いました」とディヤルは言う。
スリマンを両方から入管の職員が挟んでイスタンブールまで送還すると、トルコの政府当局にスリマンを引き渡した。その後、スリマンは空港で解放されたが、いつもの仮放免の延長手続きだと思って入管に行ったので1万円ぐらいしか持っていない。ディヤルはすぐに母親のロジンに知らせ、ロジンはトルコの自分の両親に連絡して、スリマンを迎えに行ってもらった。スリマンは13時間かけて、トルコ南東部の故郷の村にたどり着いた。
