ロープを頼りに身ひとつで滝を下ったり、崖を登ったりするキャニオニングの技術を駆使し、世界中の渓谷を探検し続けている男性がいる。高知県大豊町に拠点を置く、渓谷探検家の田中彰さん(53)だ。
2022年から2023年にかけて、ヒマラヤ奥地の“悪魔の谷”といわれる「セティ・ゴルジュ」に挑み、人類で初めて降り立った。その功績が評価され、2024年2月には、自然を舞台に活躍した探検家らに贈られる権威ある賞「植村直己冒険賞」を大西良治氏とともに受賞した。
人類未踏の地へ一番乗りすることに人生を懸ける田中さんだが、その冒険は常に死の危険と隣り合わせだという。いったい何が彼をそこまで危険な場所へと駆り立てるのか。そもそもなぜ、彼は探検に魅せられることになったのか。田中さんに語ってもらった。(全4回の1回目/2回目につづく)
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『情熱大陸』のカメラも入れなかった危険な渓谷
――これまで世界中の過酷な渓谷を探検されてきた田中さんですが、死を覚悟した瞬間が何度もあるそうですね。
田中彰さん(以下、田中) 一番危なかったのは、台湾の「カーシャー・シー」という渓谷の中で溺れた時です。ちょうどドキュメンタリー番組『情熱大陸』(TBS系列)が密着取材してくれている時にチャレンジしていた渓谷でした。
この渓谷はあまりにも危なくて、撮影クルーは同行できなかったんです。なにしろ渓谷の辺りから人里に降りるまで10日間かかるほど遠かった。
さらに、渓谷の中は約20キロの深さです。バディを組んだ沢登りの第一人者である大西良治さんと、台湾人の同行者の3人で、ヘルメットにカメラを付けて、撮影しながら進んでいきました。
――カメラマンも入れないほどの危険な場所なんですね。どういった状況で溺れてしまったのでしょうか?
田中 渓谷を上から覗くと、狭くなった岩の間を大量の水が流れていたんです。いざ入ってみると、やはり想像以上に水が多くて、滝のようになっていました。
「まあ、とりあえず行こう」と、ずっと水の中を泳いで進んでいきました。行く手にちょっとした激しい流れのある箇所があったので、手前で一度岩に上陸して様子を見ました。その激流の中央に、30センチくらいの小さな落ち込みがあった。その先は、またずっと穏やかな流れが見えたんですね。
目視で僕は、「ああ、これなら大丈夫やな」と。このまま泳いで、身1つでそこをストーンって下ったら抜けられると思ったんです。チームの先頭にいた僕は、トップバッターで滝の中に入って、水の流れに身を任せました。ところが、その落ち込みに落ちた時、そこには縦回転の渦があり、捕まって出られなくなったんです。

