エンドレスで水に引き摺り込まれる恐怖

――縦回転の渦、ですか。つまり水の中に引きずり込まれたということですか?

田中 そうです。一瞬パーって顔が水面に出るんですけど、また渦に引き戻されてドーンって水底に沈んでいく。これの繰り返しです。典型的な死ぬパターンなので、「これはまずい」と思いました。

 寝袋や食料が入った大きな荷物を背負っていたのですが、水の力によって荷物の重さでガーッと引き戻されてしまう。「自由に泳げないから、まずは荷物を脱ごう」と、水中でカバンを脱ぎました。でも、脱いだら今度はさらに事態が悪化したんです。

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渓谷を探検する際には、滝壺に飛び込むことも

――えっ、荷物を捨てて身軽になったのにですか?

田中 実は、そのカバンが浮き代わりになっていたんですよ。激しい渦の中って、水がすごく泡立っているじゃないですか。人間の体って、泡立っていない水面なら浮いていられるけど、ああいう空気を含んだ白い水の中だと、浮力を失って沈んでしまうんですね。

 さっきまではカバンの浮力で一瞬だけ顔が出る時間があったのに、カバンを手放した途端、完全に沈んでしまって全く息ができなくなったんです。

「これはまずいぞ!」と思って、水中で手を上の方に伸ばしたら、さっき脱いだカバンがあった。それを掴んでガーッと顔を上げたら、今度はそのカバンごと渦に引っ張られて、また深く沈んでいく。もう、ずっと水の中に引き込まれて沈んで、出られない。エンドレスです。

「本当に偶然出られたっていうだけ」だった

――聞いているだけで息が苦しくなります……。同行していた仲間に助けを求めることはできなかったんですか?

田中 上流に大西さんがいるのは分かっていましたが、大西さんも助ける方法がない。あそこに飛び込んだら、彼も一緒に渦に巻き込まれてしまうから、もう上から見ているしかないんですよ。だから、僕が自分で脱出するしかなかった。

 こういう縦回転の渦の脱出方法は、あえてもっと深く潜ることで、下流の方に流れる水流に乗って出られるんです。仕組みが分かっているから、パニックによる怖さはないんですけど、いざ深く潜ろうと思っても、水の中で揉みくちゃにされて、思った方向に体が動かない状態でした。

水の中で揉みくちゃにされ、死を覚悟した瞬間もあるという

――どれくらいの時間、渦に巻かれていたんですか?

田中 1分半くらいかな。たまたま何かの弾みで、水の力でバーンと下に深く押されて、ポンって下流の方から水面に飛び出したんです。僕が何か自力でアクションを起こしたから出られたとかじゃなくて、本当に偶然出られたっていうだけ。あれが今までで一番危なかったですね。死んでいてもおかしくなかったです。