ロープを頼りに身ひとつで滝を下ったり、崖を登ったりするキャニオニングの技術を駆使し、世界中の渓谷を探検し続けている男性がいる。高知県大豊町に拠点を置く、渓谷探検家の田中彰さん(53)。

 2022年から2023年にかけて、ヒマラヤ奥地の“悪魔の谷”といわれる「セティ・ゴルジュ」に挑み、人類で初めて降り立った。その功績が評価され、2024年2月には、自然を舞台に活躍した探検家らに贈られる権威ある賞「植村直己冒険賞」を大西良治氏とともに受賞した。

 大学探検部での規格外のサバイバル生活を経て、キャニオニングの国際認定インストラクターとなった彼は、やがて世界中の巨大渓谷へと挑むようになる。探検家としての集大成ともいえる「セティ・ゴルジュ」踏破の裏側などをたっぷり語ってもらった。(全4回の3回目/4回目につづく

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渓谷探検家・田中彰さん(写真=本人提供、以下同)

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卒業後は高知県で川下りのガイドに

――大学を卒業されたあと、そのまま就職をされなかったそうですね。

田中彰さん(以下、田中) 探検部の他の連中は、部活と割り切ってスパッと普通に就職していきました。でも僕は、あれだけ必死でトレーニングして、現地で探検をしてきたのに、それを全部ほっぽり出して違う仕事をするのがもったいなかった。まだ全然やり足りないという思いがあったんです。

 でも当時の日本企業は、仕事を数ヶ月休んで海外遠征に行くなんて許される環境じゃなかった。どうしようかなと思っていた時、たまたまアウトドア雑誌の後ろの求人広告で「川下りのガイド募集」を見つけたんです。

 川下り(ラフティング)なら冬はシーズンオフで丸ごと休めるから、探検に行けるぞと。それで、高知県に移り住んで、日本で一番の激流と言われる四国の吉野川で、アルバイトのラフティングガイドになりました。

世界の渓谷を探検している

――吉野川のガイドの仕事は、いかがでしたか?

田中 ガイドの仕事は想像以上に難しくて、いきなりボートが転覆して激流に揉まれたり。「こんなところでお客さんを安全に川下りさせるの!?」と驚きました。

 でも、マダガスカルのように道がない場所では、川が一番確実な移動手段になる。「ここで激流を読むテクニックを学ぶことは探検の役に立つはずだ」と思って打ち込みました。