Googleアースで見つけた、ヒマラヤの“人類未踏の空白地帯”
――世界最大の渓谷と言われるヒマラヤの「セティ・ゴルジュ」へ挑むきっかけは何だったのでしょうか。
田中 2019年頃のことです。キャニオニングは日本ではまだまだ浸透していないけれど、海外ではメジャーな遊びです。だから、僕がキャニオニングで世界各国に出かけるようになると、海外の知り合いが増えて、「俺の国にすごいとこあるよ、来ないか」って情報が入るようになるんです。その中の1つが、ネパールでした。
――ネパールと言えば、地球上でもっとも標高の高いヒマラヤ山脈がありますね。
田中 そうです。「ヒマラヤならすごい渓谷があるやろな」と思って、Googleアースで周辺の山をスクロールして見ていったんですよ。そしたら、7500メートル級の山々にぐるっと囲まれたとてつもなく大きな山の中に、見つけちゃったんです……。鉛筆で引いたみたいな細い線にしか見えない渓谷を。
――偶然に、ですか?
田中 そう。いくら拡大しても線のままということは、幅が10メートルとかそれぐらいしかないわけです。「これはすごいもんを見つけたぞ!」と思って調べてみたら、誰も入ったことがない人類未踏の空白地帯だと分かりました。
それで、キャニオニングを始めてから知り合い、海外遠征ではいつも一緒に出掛ける沢登りの第一人者・大西良治さんと、2022年に2人で行くことになりました。
――ヒマラヤの奥地、しかも誰も入ったことがない巨大渓谷となると、遠征の規模や費用も莫大なものになりそうです。
田中 現地にはヘリコプターでしか行きようがなく、渓谷に辿り着くまでにものすごいお金がかかりそうだった。だから、僕たちが渓谷の中で自分たちで撮った映像素材をテレビ番組に提供して遠征費の足しにしたりして、なんとか資金を工面して実現できたんです。
深さ400メートル以上の絶壁も…過酷なセティ・ゴルジュの内部
――実際のセティ・ゴルジュの内部はどれほど過酷だったのでしょうか。
田中 2022年の1回目は偵察で、準備期間を経て2回目に行ったのは翌年の2月でした。現地では、1ヶ月ちょっと山に入りっぱなしでした。
とにかくスケールが大きくて、高いところだと深さが400メートル以上あるんです。底が見えない絶壁で谷底に降りるのにも労力がかかりました。
一番危なかったのは、やはり落石です。セティ・ゴルジュの探検の間、ずっと天気が悪かったんですが、ある日天気が良くなって太陽が出たんです。そしたら、前日に降った雪が溶けて、大量の雪解け水と石が両側の壁からバーッと流れ込んできた。
その水の流れに乗って、石が雨あられのようにドドドッと降ってきたんです。たまたま崖がオーバーハング(ひさし状にでっぱっている地形)になっていて、身を隠せるくぼみがあったので、そこに慌てて逃げ込んで落石が落ち着くのを待ちました。あれは本当に危なかったです。


