『達人伝〜9万里を風に乗り〜』(双葉社)の第21巻が発売中

 独創的なキャラクター、癖になるセリフ、大胆すぎる史実の解釈――王欣太さんの描いたマンガ『蒼天航路』は、日本人の三国志観を一新して大ヒットした。王欣太さんは現在、隔週刊誌「漫画アクション」で古代中国の戦国時代に材をとった『達人伝』を連載中だ。

「僕はもともとサラリーマンをしてまして、マンガ家になるつもりなんか全然なかったんです。『蒼天航路』を描いているときは、正直言って『しんどいなあ〜』と思ってましたけど(笑)、いまは『達人伝』描いていてホンマよかったと実感する毎日です。登場人物ひとりひとりに憑依しながら描くのは面白くてね。でも、なにせ出てくる人物が多いんでメチャメチャ苦労します。脚本・演出・主演・助演も兼ねた、ホンマに“劇団ひとり”ですわ」

 王欣太さんの作品に出版物以外で触れられる場所がある。東京の品川駅の至近にあるギャラリー・クオーレだ。ここでは作品の原画を直に見ることができる。

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「サラリーマン時代の同期がやっているギャラリーで、僕のところに何か展示するものよこせ言うてきたのが始まりです。『そんなら原画でも売るか!』ということになりまして。マンガ家さんは誰しも抱えてる、死んだら原画をどうするか問題というのがありまして、どうもウチの家族も保管するのは面倒くさそうなんで、どうせなら喜んでくれる読者やファンの手元にあったほうがええやろうと思ってます。同業者からは『んなアホな』っていわれますけどね」

 もちろん法外な値をつけるわけでも、二束三文で売り捌いているわけでもない。心血注いだ生の原稿を愛読者が実際に手にできる――その関係性が楽しいという。

「こないだファンを集めて初めてのお茶会をやりました。僕はサイン会もやらないし、ほとんど読者との接点がないから、この機会にもっと王欣太を印象づけてやろうと思って、秘蔵のすべらない話をかましたんですけど、これがめちゃくちゃウケなくてね。逆に歴史の話や老荘思想の話のような堅い話の方に食いついてくれた。どうも僕の読者には真面目な人が多いみたいです。すべらない話がウケへんかったのは誤算やったけど(笑)、読者とのこういうゆる〜いつながりは良いなあと思いました」

 今月、発売された『達人伝』の最新コミックスでは、桁違いの大量虐殺で歴史に名を残す秦の将軍・白起の最期が描かれている。

「作品の中でも人気ナンバーワンの登場人物。その最期やから気合はめっちゃ入ってます。実は連載のラストはすでに頭の中にあるんです。めっちゃ売れてる某キングダムをぶち抜く勢いでこれからも描いていきますよ(笑)」

きんぐごんた/大阪府生まれ。サラリーマン生活を経て、1990年「月刊アフタヌーン」掲載の「HEAVEN」でマンガ家デビュー。94年から「モーニング」で『蒼天航路』を連載。98年、同作で講談社漫画賞受賞。2013年から「漫画アクション」で『達人伝』を連載中。他の作品に『地獄の家』『ReMember』など。