「シュレッダー事件」をきっかけにバブルが到来
作品価値のピークは、ちょうど東京の絵が話題になった2018年。一流オークションで代表作「風船と少女」のキャンバス版が約104万ポンド(当時約1億5000万円)で落札されたその瞬間、額に仕込まれたシュレッダーが作動して作品を断裁してしまったのだ。
これも、美術界のマネー主義をおちょくるバンクシーらしいゲリライベント。内密に会場入りしていた本人は、現場で戸惑う人々を撮影した動画をSNSで公開。結局、半分破損された絵画自体をひとつの作品とみなし「愛はごみ箱の中に」と改題された。
この話題により、バンクシー・バブルが到来した。2021年にはオークション売上高が歴代最高となる1億7130万ドル(約270億円)に達し、世界トップ10の美術家に君臨してみせた。
「無法者」のはずなのに…“権力者”に愛される矛盾
反商業主義の姿勢で知られるバンクシーだが、市場をコントロールするやり手とも言われてきた。定期的に話題をつくって需要を保ち、真贋判定システムを握ることで美術業界に牽制をかけつつ、その裏で厳選されたVIPコレクターに直接販売を行っているらしいのだ。
名声が高まるほど、疑念や反感も醸成されていった。「無法者」が売りだったバンクシーのストリートアートは、ほかの同業作家と異なり司法から放免されるようになっている。日本でも、小池百合子都知事が「ネズミ」壁画を保管して展覧会を開いた際、一部から「反逆のアートを体制側が取り込んだ」と見なされていた。
2025年には、母国イギリスの王立裁判所の外壁に司法を批判するアートが描かれた際、バンクシーに対する捜査が目立ったかたちで行われなかった。落書きの除去作業は長らくつづいており、昨年までに約500万円もの公費が費やされたという。つまり、権威に反抗してきたアーティストが体制から優遇される「権威化」のパラドックスがますます目立つようになっていた。