まるで森信雄と村山のような関係

 山崎が糸谷応援なのは暗黙の了解だが、早速、初手から連続の端歩突きについて聞いてみる。

「絶対に新しい将棋にするんだ、という糸谷君の意志を感じますよね。苦戦は覚悟の上と(笑)」

 私はさらに糸谷のことを聞く。

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「初めて会ったのは、まだ私が三段で彼が小学1年くらいだったかな。広島将棋センターの席主さんから『君や片上君(大輔七段)より成長が早い子なんで、指してあげて』と言われて。で、なぜか平手で(笑)指すことになって。

 私が△1二玉としたら『米長流ですね』って(※香の上に玉を乗っかるのが米長の得意形で『米長玉』と呼ばれた)。小学1年生に奨励会三段が定跡を教わるという(笑)。彼とは奨励会時代はそんなに指していないです。棋士室でたまたま居合わせたら指していたぐらいで」

写真提供:日本将棋連盟

 藤井猛も糸谷のことを聞いていた。

「糸谷君はNHK杯2年連続準優勝とか、早指しが強いとは言うけれどさ。私は5局指していて、早指しは2局とも勝っているんだよ(銀河戦と朝日杯)。だけど、竜王戦の3局はすべて負けた。どうして?」

 山崎は間髪入れず答える。

「豊島さん(将之九段)や稲葉さん(陽八段)に大きく水をあけられたから、時間を使うようにスタイルを変えたと言っていました。そしたら今度は早指しで勝てなくなったってぼやいてましたけど(笑)」

 山崎は糸谷のことなら、スケジュールでも住んでいる部屋の間取りでも何でも知っていた。たぶん糸谷も山崎のことを何でも知っているのだろう。『聖の青春』で描かれた森信雄と村山の師弟みたいだなあ、とニヤニヤしながら聞いていたら、こんな話も出た。

「この前、『タイトル戦に複数出場しながら、1回も勝ったことがない棋士は山崎さんしかいません』って言われて(2009年王座戦・対羽生、2024年棋聖戦・対藤井聡太、いずれも3連敗)。励ましているつもりだったみたいだけど、そんな記録、知りたくもなかった(笑)」

 おっと、そこまでズケズケと言うのか。面白い関係だな。

 後日、糸谷が竜王戦で鈴木大介九段に勝って九段に昇段した日に、話を聞いた。

「村山先生にも山崎さんにも指導を受けましたが、あまり覚えていません。というか奨励会三段なのに米長玉を知らないってことがあるんですかねえ(笑)」

「タイトル戦未勝利の話は、また大舞台に出てくださいよって、兄弟子を鼓舞したつもりでしたが」と笑った。

 さて控室の会話に戻る。

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次の記事に続く 「もしも、いま彼がここにいてくれたら…」藤井聡太に糸谷哲郎が挑んだ名人戦、わたしは村山聖のことを思わずにはいられなかった