俺も村山とこんな会話をしたかった

 感想戦は面白かった。糸谷はよく笑い、藤井も何度も笑顔を見せた。やがて両者深々とお辞儀して感想戦が終了。

 糸谷は部屋を退出しながら、佐藤天彦と楽しそうに談笑している。そうだ、二人は関西奨励会同期入会で1988年生まれの同い年だ。いいなあ、俺も村山とこんな会話をしたかったなあ。立場が違いすぎてできなかった。

 あんなに早く別れがくるなら立場なんて気にしなければよかった。推理小説の話題に盛り上がった、あのときのように。戻れるなら、昔に戻りたい。いや、いま彼がここにいてくれたら、森信雄門下初めての名人戦をどう評価したのだろうか。

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 前傾姿勢で苦しそうな表情で戦う糸谷の姿に、村山聖が重なっていたよ。ああ、年を取ると涙もろくなって困るなあ。

糸谷哲郎九段(写真提供:日本将棋連盟)

 糸谷に「山崎さんが来ていましたよ」と言うと、なんとも言えない表情をした後、苦笑いした。

 糸谷にとって人生最長の消費時間539分を記録した日。名人戦初の「初手端歩」が刻まれた、記録にも記憶にも残る第1局だった。

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