2019年に『首侍』でオール讀物新人賞を受賞しデビューした作家・由原かのんさん。待望の単行本2作目となる時代小説『おりせ人形帖』が、5月13日に文藝春秋より発売されます。
舞台は江戸時代の人形町。人形の声を聞くことができる不思議な力を持つ少女・おりせの迷いや成長を描いた作品です。人形職人の家に生まれたおりせは、自身も職人になることを夢見ていますが、跡取りである弟・清太郎の存在や、父の弟子である斎助への淡い想いとで心は揺れます。
著者の由原かのんさんに、作品に込めた想いや制作の裏側について伺いました。
◆◆◆
「恋と蝉丸」という“読み間違い”から始まった物語
――江戸情緒あふれる人形町を舞台に、人形と心を通わせる少女の成長を描いた本作。日本人形を思い浮かべていただくと、おりせと彼女の家族が作る人形のイメージがしやすいと思います。おりせが人形と話せる少女というユニークな着想は、どこから生まれたのでしょうか。
由原:前作(『首ざむらい 江戸妖かし綺譚』文春文庫)が男性ばかりの主人公だったので、今度は女の子で書いてみようと思っていました。それで、江戸時代の話を漠然と考えていたんですけれども、あるときネットを見ていたら、ドラマの広告が上がってきたんですね。それは『恋と弾丸』という題だったのですが、それを『恋とセミマル』と読み間違えたんです。
よく見たら『恋とダンガン』で、そうだよな、『恋とセミマル』のはずはないなと思いました。当時の私には、恋とセミマルが結びつかなかったんです。セミマルというと、百人一首の札の少し不気味な絵しか浮かばなくて、恋の歌も詠んでいませんし。でも、その話をある知人にしたら、「それおもしろいから、ちょっと書いてみたら」と言われて。それで、『恋と蝉丸』をテーマに書き始めました。
調べてみると、江戸の元禄頃に浄瑠璃や芝居で「蝉丸もの」という一連の作品が作られた時代があったんです。そこに出てくる蝉丸が、美しい男で、天皇の息子という設定。琵琶の名手で、複数の女性から慕われて嫉妬に翻弄される。まさに「恋と蝉丸」だったんですね。これはいけるな、と。そこで、時代は江戸時代にしようと設定が決まりました。
――作中では、おりせが人形浄瑠璃で見た蝉丸に一目惚れし、人形職人の父・貝助に頼んで作ってもらった特別な人形として登場します。おりせはこの蝉丸や、悲しい過去を持つ3歳の少女、おちよという人形と心の内を語り合い、日々の悩みやつれづれを分かち合います。
由原:生身の蝉丸がいきなり出てくるわけにはいかないので、おりせは人形浄瑠璃に憧れる女の子という設定にしました。お芝居小屋の近くがいいだろう、すると、堺町の隣に人形町があるな、と。芝居を見るのだから、人形作りの家族にしたらどうだろうか、という感じでだんだん設定を進めていきました。

