主人公・ダイと女王候補・マリアージュは「弱い者同士が助け合う関係」
――主人公のダイと、ダイが仕えることになる女王候補のマリアージュ。二人の関係性が物語の大きな魅力ですが、それぞれのキャラクターはどのように作られていったのでしょうか。
千 ダイは、花街という特殊な環境で、周りの人たちに愛され、守られて育った「箱入り」として考えました。守られて愛されているという自覚があるからこそ、素直で正直な振る舞いができる。ただ心の奥底では、みんな自分を通して有名な芸妓(娼婦)であった母親を見ているのではないか、という疑いも持っていて、その不安を隠すために「化粧師・ダイ」という仮面をかぶっているようなところもあります。
――一方のマリアージュは、ダイとは対照的ですね。
千 彼女は物語の中で一番の「凡人」として描いています。生まれたときからずっと邪魔者扱いをされて、屋敷のなかで誰にも愛されずに育ってしまった。家族にも、です。だからすごくひねくれているし、どう振る舞っていいのか分からない。ダイは血縁ではない人たちに愛されて育ったのに対し、マリアージュはまったくその逆。二人を対照的な存在として描きました。
――そんな二人が出会い、絆を深めていくわけですね。
千 マリアージュに欠けているのは、自分への自信と、誰かに自分のことを保証してもらった経験です。そしてダイは、誰かを保証する仕事の人間。人間関係って、圧倒的な強者が誰かを救うのではなく、弱いところがある人同士が助け合って生きていくものだと思うんです。この物語では、そういう関係性を描きたいと思いました。
「ホウレンソウ」を徹底しているからこそ生まれる、リアルなすれ違い
――ダイとマリアージュ、そして彼らを取り巻く人々との人間関係が、非常にリアルに感じられました。特に、登場人物たちがきちんとコミュニケーションを取っているのに、なぜかすれ違ってしまう描写が巧みだなと。
千 物語を作るとき、「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)をしっかりしたうえですれ違わせる」ということを意識していました。本を読んだり、ドラマを見たりしているときに、「そこを報告しておけば問題なかったのに」と感じることがよくあるのですが、それは避けたかったんです。
――確かに「なんで言わないの?」とやきもきする展開はよくありますね。
千 『女王の化粧師』では、登場人物たちは基本的にホウレンソウをします。ただ、その伝え方や、あえて伏せられた情報によってすれ違いが起こる。例えば、登場人物のヒース(ダイをマリアージュの化粧師に推薦した人物)は、ダイをマリアージュの屋敷に引き入れた際に「化粧は貴族社会であまり受け入れられていない」とやんわり伝えます。しかし、のちに侍女頭のローラによって「化粧をするなんて貴族としてありえない」という衝撃の事実が告げられるわけです。言っていることは同じでも、言い方やニュアンスで受け取り方はまったく変わりますよね。
――嘘はついていないけれど、真実のすべてを語っているわけではない、と。
千 はい。みんな自分の都合のいいように、情報を取捨選択している。上司への言い方と部下への言い方が違うように、現実の人間関係で起こりうることが、そのまま物語の中でも起こっている。そういうリアリティを大事にしました。ホウレンソウをしないですれ違うのではなく、ホウレンソウの仕方ですれ違っていく。そこにも注目して読むと面白いかもしれません。