日常に潜む恐怖の源泉「立体パズル」

――次に紹介する「立体パズル」は、幼稚園児の息子を持つ父親が主人公です。彼の息子と同い年の子どもが、「子どもは静かにするもんだろうが」と主張する、通り魔的な犯人によって殺害される事件が発生します。この作品は、どこから着想を得たのでしょうか。

芦沢:これは以前書いた『夜の道標(どうひょう)』(中央公論新社)という作品がきっかけです。この小説は殺人を犯した人が逃亡する話なのですが、彼の幼少期に育った家には、もう別の家族が住んでいる、という描写が2行ほどありました。その時、ふと「今その家に住んでいる人たちってどんな思いなんだろう」と気になったんです。

 逃亡中の殺人犯が生まれ育った家で暮らしている家族がいる。事件が起きた場所ではないので、いわゆる事故物件ではないし、買った後になって「いわく付き」だと知ってしまった。高い買い物をしたのに売ることもできない。そんな状況ってどんな感じだろう、そうなったら嫌だなあ、というところから話を作っていきました。

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芦沢央さん ©文藝春秋

競作アンソロジーから生まれる化学反応

――本書には、「待てば無料」(週刊文春の豪華ミステリー競作企画「5分の迷宮」)をはじめ、複数の作家が同じテーマで執筆する「競作アンソロジー」に寄稿された作品も収録されています。芦沢さんは競作の魅力をどこに感じていますか。

芦沢:お題を出されることによって、それがなければ思いつかなかったアイデアが結構生まれるので、競作アンソロジーはすごく好きです。仕事が詰まっていても、面白いお題だとつい受けてしまいます(笑)。

 お題をいただくと、まず他にどなたが執筆されるのかを聞いて、そのメンバーを見て「かぶらないようにしよう」と考えます。その過程で、新しい発想が生まれるんです。

――「テーマやトリックが被らないようにしよう」という思いが、逆転の発想となって生まれた収録作の一つが、「代償」という作品です。

芦沢:「共犯関係」というお題で書いてくれと言われたことが始まりだったのですが、思いつくアイデアについて、「これだと誰かとかぶるんじゃないかな」と不安になったんです。その「かぶるって怖いな」という気持ちから、「自分が書いたものが、もう既に似たような作品がありますよ、と言われたら嫌だな。それがすごく長い長編で、しかも自分の勝負作だったら……」と最悪のシチュエーションを想像して。それがあり得るとしたらどんな状況だろう、という形で物語を書いていきました。