芦沢央にとっての「正しさ」とは

――様々なアプローチで「正しさ」へのモヤモヤを描いてきた芦沢さん。今、改めて芦沢さんにとって正しさとは何でしょうか。

芦沢:私にとって「正しさ」は、どんどん変わっていく、常に怖いものです。正しいということ自体が怖いし、自分が正しさを理解できていないかもしれないのも怖い。自分が信じている正しさが守れなくなるかもしれないのも怖い。どれも怖いです。

 例えば「待てば無料」は、24時間待つと漫画が無料で読めるアプリの話ですが、「無料で読めるのにお金を出すなんてバカみたい」とか、「こうすれば得できるのに、やらないのは損だ」といった価値観が溢れています。そうやっていろんな価値観が変容していく中で、正しさも変わっていく。

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 コロナ禍でもそうでしたよね。自分が見えているものが揺らいでいくこと、その変化によって自分が誰かを傷つけたり、間違ってしまうかもしれない、という怖さがあります。私は、怖いものがあると書かずにいられないタイプなんです。この9年間の短編を見ても、ずっと何かが怖かったんだな、という気がしますね。

デビュー15年目を迎えて

――芦沢さんは、2012年に『罪の余白』でデビューされ、今年2026年で15年目を迎えます。

芦沢:もう15年目か、とびっくりします。その都度、何年後まで書けるかなどとは考えずに、その時に書きたいものを全力で書いていたら時間が経っていた、という感じです。でも、こうして仕事をさせてもらえるのは、読者の方が読んでくださったり、応援してくださったりするおかげだな、と感じています。それがなかったら、とっくに私は廃業していただろうなと思うので、しみじみありがたいなと思っています。

――修行僧のようにストイックに、純文学など新たなジャンルにも挑戦し、表現力を磨き続けてきた芦沢さんですが、今後の目標や書きたい作品はありますか。

芦沢:ここ数年は、書きたいものがあるのに自分の実力が足りなくて書けない、と感じていた題材に取り組むために、筋力をつけるような修行をしてきました。今年、来年は、さらに新しいことに挑戦するというよりは、これまで身につけた力で、自分の今までのフィールドで飛距離を伸ばすような、今までとは違う書き方を試してみたいですね。『夜の道標』に登場する刑事の平良正太郎が主人公のシリーズ作品も始まりますし、自分の力が今どこまでいけるのかを試してみたい気持ちがあります。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

芦沢:おかげさまで15年目を迎えることができました。ありがとうございます。この14年ちょっと、いろんなジャンルや作風に挑戦させていただきました。読者の方にとっては、「芦沢さんといえばこうだよね」という作品が読めた方が安心だと思うのですが、開けてみるまで分からない、ということでご負担をおかけしてしまったかもしれません。

 それでも「今回はなんだろう」と思いながらついてきてくださった読者の方々のおかげで、今まで書いてこられたし、これからも書いていけるなと思っています。これからも頑張っていきますので、応援のほどよろしくお願いします。

芦沢 央さん

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 デビュー15年目を迎えた芦沢央さんが贈る、珠玉のミステリー短編集『あなたが正しくいられたとき』。日常に潜む「正しさ」の危うさと、それが揺らぐ瞬間の恐怖を、鮮やかに描き出しています。あなたの信じる正義が試される6つの物語を、ぜひ手に取ってお楽しみください。

あなたが正しくいられたとき

芦沢 央

文藝春秋

2026年5月22日 発売

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