人口の上位1%が富の4分の1を占める韓国。格差社会の象徴とも呼ばれてきた場所がある。タルトンネ=月の町と呼ばれる韓国最大のスラムだ。NHKスペシャル「臨界世界 月の町タルトンネ ソウル最後のスラム」(4月26日夜9時から放送)。経済成長の光と影が交錯する巨大スラムの今を記録するなか、タルトンネで起きた恐るべき事態とは。(寄稿:NHK趙顯豎、NHK有元優喜/全2回の2回目)
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「いま、町が燃えています――」
2026年1月16日午前7時14分。東京の自宅の寝室で、浅い眠りの中を行きつ戻りつしていたところ、 ズンチャッチャ、ズンチャッチャ……という、KakaoTalkの軽やかな行進曲風の着信音で目が覚めた。
「はい、もしもし?」
「おはようございます。寝ていましたか?」
ソウル在住のコーディネーターのMさんの声はかすれがかっていて、彼もまた不意の知らせにより、叩き起こされたのだと察した。
「ああ、ええ。どうしましたか?」という寝ぼけた私の頭の中に、さっと不吉な影のようなものが差し、その影がイメージを結ぼうとする寸前で、Mさんは落ち着いた調子で言った。
「タルトンネで火が出ました。いま、町が燃えています――」
「取り返しのつかないことが起きた」
そう一目でわかった。火災翌日の午前8時30分。タルトンネには、見渡す限り焼け野原が広がっていた。
つい2日前までそこにひしめいていたバラックは灰と化し、消防車からの放水で土と混ぜ返され、吸い込んだ水が零下の夜のうちに凍り付いたせいで、奇体な真っ黒の造形物となって、あちこちに隆起していた。
トタン屋根、納屋のワイヤーネット、自転車のフレームなど、金属の物体は、ひしゃげ、ひん曲がった形で、黒い斜面に突き刺さっていた。 まだ所々に煙がくすぶっていて、プラスチックが溶けたツンとした匂いが鼻を刺した。

