変わる中国とフードディフェンス
──「法律や制度が変わった」ことでどんな変化がありましたか? 10年ほど前、残留農薬や毒物混入などの問題が相次いだ中国の冷凍食品業界は、どのように課題に取り組んだのですか。
山本 事件以来、中国政府は国をあげて安全対策に乗り出しました。法律も変え、監視体制の強化も図っています。日本のメディアは毒物混入だけをこぞって取り上げましたが、冷凍食品業界が注目したのは、「なぜ毒物混入が起きたのか」ということでした。これらの事件の共通点は、「悪意のある人物による攻撃」が原因だったということです。従来のフードセーフティに加えて、フードディフェンスに取り組む必要がある、というのはこの頃から出てきた概念です。
──フードディフェンス……。悪意をもった第三者による意図的な食品汚染や異物や毒物の混入といった攻撃から食品を守るという考え方や取り組みのことですよね。
山本 それまではどちらかというと「フードセーフティ」(食の安全)、つまり衛生管理や品質管理をしっかりやっていれば良い製品ができると考えられていました。でも、いくつかの事案から危機管理の要素として、人為的な(悪意のある)攻撃から食品を守るという「フードディフェンス」(食品防御)にも取り組まなければ万全を期すことができないと考えられるようになりました。
──「中国産冷凍食品」に関するこれまでの事件も、「中国産」だから悪かったわけではなく、「悪意のある人が関わった」という事実を見逃したことが一番の問題だったということでしょうか。
山本 そうですね。安全基準や生産体制でみると、日本向けに食品を生産している工場では、原料の産地での農薬管理から始まって、工場での衛生管理はもちろん、日本企業の指導により徹底した管理が行われています。おそらく日本国内の工場より、はるかに厳しい基準で管理されている事例が多いと思います。
2002年の中国産冷凍ホウレンソウの残留農薬問題も、調査の結果、原材料の不足を補うため、現地の判断で契約外の農場から仕入れたホウレンソウに問題があったことがわかったと聞いています。そもそも、残留農薬の基準って、どういうふうに決まっているかご存知ですか?
──知りません。教えてください。
どのような食品にもリスクはある
山本 まず、残留農薬が基準値以上検出されると、その食品は法律違反として流通販売が止められます。原則として、健康に影響のない0.01ppm(1ppmは100万分の一)の一律基準値を超えると法律違反とされますが、残留基準値が定められている場合は、その値を超えるまでは許容されます。これを「ポジティブリスト」制度(2006年~)といいます。同制度以前は、原則の規制がなく、残留してはいけない農薬のみ基準値が設定されていた「ネガティブリスト」制度でした。
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食品衛生法第11条第3項
農薬、飼料添加物及び動物性医薬品が、人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が定める量(一律基準値0.01ppm)を超えて残留する食品は、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、保存し、又は販売してはならない。
ただし、当該物質の当該食品に残留する量の限度について 食品の成分に係る規格(残留基準値)が定められている場合については、この限りでない。
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──でも、基準値を超えた食品を食べたらたちまち危険というわけではないですよね。リスクは危険度と摂取頻度のかけ算だといいますが……。
山本 おっしゃる通りです。毎日摂取し続けても健康に影響の出ない量をADI(1日摂取許容量)といいますが、ADIは摂取し続けて健康に影響がない最大の量(無毒性量)に安全率100分の1を掛けた量です。つまり、たとえ1つの食品で基準値を超えた場合でも、ADIを超えることはほとんどなく、安全性の観点からは問題ないといえます。
このように、中国産冷凍食品の衛生管理、安全性を維持するレベルは高くなっているんです。「この食品が危険」という情報にだけ踊らされず、食品にはいつも、どのような食品であってもリスクがあるということを忘れてはいけないと思います。
取材・構成=相澤洋美
(#3へ続く)
やまもと・じゅんこ
冷凍食品ジャーナリスト。「冷凍食品新聞」編集長、主幹を経て、2015年独立。現在は一般向けサイト「冷凍食品エフエフプレス」を立ち上げ、編集長としてサイト運営に携わる。冷凍食品の報道に携わって以来37年間冷凍食品を食べ、冷凍食品のよさとおいしさを発信し続けている。最近は冷凍食品解説者としてテレビ番組などでも活躍。夢は「冷凍食品ミュージアム」を設立すること。https://frozenfoodpress.com/