「子会社=左遷」という常識は、本当に正しいのか――。“日本人の思い込み”に、ソニー元社長・出井伸之氏(1937~2022)が異議を唱える。
なぜ彼は「出向はチャンス」と言い切るのか。異端の出世を遂げた男の人生を、ノンフィクション作家・児玉博氏の新刊『ソニー神話を壊した男 出井伸之が創った未来』(小学館)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む)
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経歴ではダメだ
2021年の夏頃、出井にインタビューを重ねていた。結果として、出井の最後の出版物となってしまったが、『人生の経営』(小学館新書)に向けた取材だった。
過去を振り返ることを嫌う出井だが、そのときは、自らの経験、体験を後世のビジネスマンのために残すという趣旨から、喜んで話をしてくれた。このとき、筆者は出井が社長になる前のサラリーマン時代に、どんな仕事をしてきたかを詳細に聞いた。
筆者が、「出井さんが社長になる経緯は本当に興味深いですね。大賀さん、はっきりした物言いをするんですね。『出井は経歴ではダメだ』って、はっきりし過ぎてる」と話を振ると、出井は屈託なく笑い、こんなことを話した。
「大賀さんとは本当に、なんと言うのかな、前世はきっと敵同士だったと思うけども……。やり合うことばっかりで……。たぶん、3回か4回は『お前はクビだ』って言われたな……。こんなにクビを申し渡されたサラリーマンって珍しいよね」
少しばかり感慨深げだった出井は、スッと視線を移し、
「この本読んでるよね?」
と言って、脇に置いていた1冊、『ソニー ドリーム・キッズの伝説』(ジョン・ネイスン著、文藝春秋)を取り上げた。
2000年に翻訳されたこの本は、当時、1995年に社長に就任した出井をかなり取材し、書かれている。
作者、ジョン・ネイスンは米ハーバード大学卒業後、東京大学に入学したという日本研究家であり、翻訳家であり、プロデューサーなどその活動は多彩。三島由紀夫の『午後の曳航』を翻訳したのが24歳の時。その後も、大江健三郎『個人的な体験』などの翻訳を手掛けている。
このジョン・ネイスンとソニーの関わりは、1995年、ソニーが翌年に迎える創立50周年の記念ドキュメンタリーの制作を彼に依頼したのがきっかけだった。ドキュメンタリーの取材を通じてソニーに強い興味を覚えたネイスンが単行本の出版を思い立ち、出来上がったのがこの本なのである。
