何度目かのインタビューで、出井はこんなことを言い出した。
「半沢直樹って人気じゃない? だけどさ、あれ、困っちゃうんだよね」
半沢直樹――。銀行内の不正を次々と暴いていく痛快ドラマの主人公である。当時はこのドラマの人気が沸騰し、半沢直樹は日本一有名なサラリーマンと言われるほどの存在になっていた。
「親会社が上で、子会社が下」ではない
2020年7月~9月に放送された続編では、子会社に飛ばされていた半沢直樹が、親会社の銀行に復帰し、さらに活躍するというハッピーエンドの日本的な終幕だった。
この国民的なヒーローに対し、出井は“困っちゃう”と言うのだった。
続編の最終回の視聴率は32.7%を記録し、令和のドラマでは最高視聴率になったそうだが、なぜ出井が困るのか。
「子会社から親会社に復帰したことに喝采を送るわけでしょう? それが困っちゃうんだよね」
出井は何を言おうとしていたのか。出井の考える理想的な会社のあり様は、日本人が一般的に思っているような“親会社が上で、子会社が下”というものではないようだった。
「普通に親会社が上で、子会社が下って思っているでしょう? だから、“半沢直樹”も親会社に復帰したから、皆が喝采を送ったわけじゃないですか。皆さん、親会社が上だと思っているからですよね」
出井に言わせれば、親会社も子会社もサラリーマンにとっては、関係ないという。出井が考えるサラリーマン像で、大切なのは、どこで最も充実した仕事ができるか、言い方を変えるならば、最も“輝ける”場所が一番いい。
だから、最も充実した仕事ができる場所ならば、それが親会社であろうと、子会社であろうと、大企業であろうと、ベンチャーであろうと、まったく関係ない。
出井にとって、サラリーマンが働くということは、そういうことだった。そこには、あくまで“個”として生きるという信念が貫かれていた。
しかし、世の中では、子会社に出向になると、“飛ばされた感”を感じる人が多い。
