子どもが生まれれば責任感が芽生え、自然と成熟するものだ、という考え方は、私たちの社会の中でよく見られます。

心理学の研究の中でも、こうした直感を支持する理論があります。やはりそれも、ここまで何度か登場してきた「社会的投資の原理」です。子育てという、成熟した大人に特有の社会的役割に強くコミットしていくほど、勤勉性や情緒安定性といった、人間にとって成熟したイメージをもつ性格特性が高まっていくだろうという考え方です。

ところが、実際に子育てをする親を対象とした心理学の研究を見ていくと、社会的投資の原理からイメージされるような性格の変化とは、やや異なる可能性が示されています。

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子育てという「混乱」にどう適応するか

さまざまな研究によれば、第一子の誕生は勤勉性を高めるどころか、むしろ一時的に低下させる傾向が観察されているのです。出産を経験することは外向性の低下と関連しており、勤勉性や情緒安定性の明確な向上も確認されませんでした。

これは、育児というまだ経験したことがない初めての出来事によって、自分や家族がもつ資源(リソース)が足りなくなることや、生活の混乱を反映している可能性があります。

初めて子どもをもつという経験は、それまでの生活を激変させます。夜間に授乳をしなければならなかったり、睡眠が不足したり、子どもがいるとやはり予定も立てにくくなります。出かけようと思って準備をしても、子どもの調子が突然悪くなるかもしれません。子どもが誕生するまで維持してきた生活は一気に崩れてしまい、計画的な生活からは程遠いものになってしまう可能性もあるのです。

親になるという経験は、大人としての成熟に向かう変化というよりも、まずは混乱を経験し、そのなかでいかに適応していくのかということが問題になるのかもしれません。

「ベビー・バブル」はいつの間にか終わる

興味深いのは、その変化が出産後だけに起こるわけではないという点です。