台風21号が日本各地を襲った9月4日、神宮球場で行われた東京ヤクルトvs中日ドラゴンズはとんでもない試合になった。9対3、中日が6点リードでむかえた9回裏、先頭の西浦直亨が四球で出ると武内晋一が2ラン、その後もランナーをため、雄平、大引啓次のタイムリーなどで一挙6点、土壇場で試合を振り出しに戻した。そして迎えた延長11回裏、簡単にツーアウトを取られるもまたも西浦直亨が四球で出ると井野卓がヒットで続き、ランナー1、2塁で上田剛史がサヨナラ3ランホームランを放つという劇的な幕切れで東京ヤクルトが大逆転勝利をものにした。
もちろん大逆転が凄いのだが、打った上田剛史は2年ぶり、武内晋一にいたっては4年ぶりとなる一発だったのだ。そして両選手にとっては今年は特別な年だったのかもしれない。3月に上田の恩師である関西の江浦滋泰氏が、先月には武内の恩師である智弁和歌山の高嶋仁氏が勇退を発表したばかりだった。何か両監督に向けての俺はまだまだがんばってますから! とのメッセージにも取れ、ヤクルトファンだけでなく高校野球ファンにとってもたまらなく嬉しい試合になった。
頭に浮かんだ明徳義塾・馬淵監督の「棚ぼた論」
なぜ行かなかった?
実はあの台風の日、神宮球場から歩いてすぐの所で仕事していたんです。
「この暴風の中、神宮やってるんですねっ」
仕事を終え帰ろうとする僕にスタッフさんが呟いた。
外はえげつない風、半ば信じられない気持ちでアプリを開くと7回終わって9対3で中日がリードとなっていた。最後だけ観に行ってもよかったのだが、まさかヤクルトがここからなんて頭にないもんだし、何も考えずにホテルに帰ったのだ。
ロビーにあるラウンジでビールを飲み、部屋に帰り、ベッドに横になりながら結果をチェックして飛び上がった。
そうまだ終わっていなかったのだ。。
上田剛史のサヨナラ3ランホームランが飛び出したのはその数分後だった。
ふと、明徳義塾の馬淵史郎監督がよくおっしゃる「棚ぼた論」が頭に浮んだ。ぼた餅を手に入れるのは、棚に一番近いもん。手を上げ続けるのは辛(つら)いが、一番努力した者がぼた餅を手に入れるという考えだ。
人生で生観戦する野球の数なんて限界がある。その中で改めて努力とは少し違うが、可能ならばGO! じゃないと大きなぼた餅を目撃しそこねるという事を今回思い知らされた。