8月20日からの家族旅行での宿泊先でも、タカシくんはイライラしながら英語の書き取り課題を続けていた。島根半島のジオパークへ向かう車中、いつもなら楽しむDVDも見ようとしなかった。

「車での移動中はアニメを流すことが多いんですがそれも見ようとしませんでした。ホテルでも宿題をやっていたので『手伝おうか?』 と声をかけましたが、『いや、いい。やる』と。『もうやればいいんだろ、これ』と投げやりな雰囲気でした。ただデザートのスイカを私の分まで食べたり、普段通りの瞬間もあったのでそこまで深刻に考えていませんでした」

 しかし結局旅行中に課題は終わらず、帰宅後も部活を休んでタカシくんは課題に取り組んだ。始業式前日の23日の夜に提出が数日遅い美術の課題をのぞく全てが終わり、カバンに詰めていたという。

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「頑張ったね。帰ってきたら美術をしようね」――。それが、母子の最後の会話となった。

「旅行から帰ったら自殺します。多分、明日か明後日には死んでいると思います」

 タカシくんが命を絶った後、警察の捜索によって衝撃的な事実が次々と明らかになった。卓上カレンダーの8月22日の欄に、はっきりと「自殺日」と書き込まれていたのだ。さらに、線路脇に残された通学カバンの中の生活記録「D-Life」には、最期の数日間の壮絶な葛藤が刻まれていた。

「自殺日」と書かれた卓上カレンダー

8月21日 旅行先から帰りました。あとは、スパートをかけます。 (その下には「旅行から帰ったら自殺します。多分、明日か明後日には死んでいると思います」と書かれ、のちに消しゴムで消されていた)

8月22日 今日は自殺せず寝てしまった。明日こそー。

8月23日 今日も失敗……夜にする予定だから、学校でなにか迷惑かかるかもしれません。すみませんでした。

「今日は自殺せずねてしまった。明日こそ…」と書かれた生活記録

 これを見た瞬間、母親は崩れ落ちたという。

「タカシが亡くなってからずっと、私が『ちゃんと宿題をやっていかないと、また目をつけられるよ』と厳しく言ってしまったからだと後悔しつづけていました。でもノートを読んで、息子がそのずっと前から死ぬと決めていたと知ったんです」

 さらに調査によって、学校側がタカシくんの「SOS」をデータとして把握していたこともわかった。2021年11月に行われた心理検査「hyper-QU」で、タカシくんは「学級生活不満足群」に分類され、「教師との関係」の数値は極めて低かった。翌2022年6月の検査では、さらに深刻な「要支援群」に。しかし学校側は特に対策を行わなかった。

「息子が亡くなった後、開示請求をして初めて知りました。当時の調査では『友人関係や学習面』のことしか書かれておらず、『教師との関係が最低』という事実は伏せられていました。心理テストが完全に形骸化していたんです」

 調査委員会のアンケートでは、教職員による不適切な指導について生徒から約120件、保護者から約100件の切実な記述が寄せられた。「提出物遅れへの過度な叱責」「高圧的な態度」などが常態化しており、タカシくんはその「ターゲット」にされていたこともわかった。

「成績が上位で、言い返せない子が狙われるようです。息子は授業中も難しい問題を真っ先に当てられていたそうです。こうした実態を、私たちは1年も知りませんでした」

 調査委員会の報告書は、A・B両教諭の指導を「ことごとく不適切」と断じ、抑うつ状態から希死念慮に至った背景に、課題提出を巡る叱責があったと結論づけた。

「面前叱責が不適切、というレベルではありません。課題の量、提出のさせ方、叱責の言葉……すべてがダメだったことが分かりました。いまは報告書に載らなかったことも含め、遺族としての所見を書いています。B先生には一度も会えていません。息子が在学中から今まで、説明も謝罪もない。彼らが報告書をどう読んだのか、それを聞きたい。それだけです」

 子どもの成長を助ける場所である学校が、子どもの命を奪ってしまった悲劇。再発防止への徹底した取り組みが求められる。

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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】

▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)

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