「戦争トラウマ」――戦地から帰還した兵士が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、無気力となったり、家族へ暴力をふるったり、アルコール依存に陥ったりする状態を指す。近年、メディアでも注目され、今年3月からはその実態を描いたドキュメンタリー映画『父と家族とわたしのこと』も公開されている。
大阪在住の藤岡美千代さん(67)は幼い頃から、戦争トラウマを抱えた父親から激しい暴力を受けていた。父親は幻覚や幻聴に苛まれ、やがて、殴る蹴るだけの暴力では終わらなくなっていく。
戦地から戻った父親は、どのように“豹変”していったのか。美千代さんは、父親からどんな“虐待”を受けるようになったのか。ノンフィクション作家のフリート横田氏が取材した。(全3回の1回目/2回目に続く)
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「あんたのお父ちゃん、戦争から帰ってきてから人が変わったみたい」戦争トラウマの当事者家族である藤岡さん
戦争が終わって、80年以上が経った。
筆者は以前から戦争体験者の聞き取りをしているが、当事者の話を聞くのはいよいよ難しくなってきたと実感している。
――ところが、そうとは言い切れなかった。これまで注目されず、むしろ黙殺され、沈黙せざるを得なかった人々の声が、今になって聞こえるようになってきたのである。
「戦争トラウマ」という言葉をご存知だろうか? 戦地から帰還した兵士が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、無気力となったり、家族へ暴力をふるったり、アルコール依存に陥る状態をいう。戦争中にこの言葉はなく、近年使われるようになった言葉だ。
大阪在住の藤岡美千代さんは、1959年(昭和34年)生まれで、戦後10年以上経ってから生まれたが、まぎれもなく戦争被害の「当事者」と言っていい。
美千代さんは、元兵士であった父・古本石松(ふるもと・いしまつ)さんからに、物心がついて以来、激しい暴力を受け続けていた。石松さんは、「戦争トラウマ」を抱えていた。
「あんたのお父ちゃん、戦争から帰ってきてから人が変わったみたい。そう言われましたね」
美千代さんは淡々と、ときにこちらを気遣ってほほえみさえ浮かべて証言してくれたが、父との暮らしの回想はあまりにも陰惨であった。石松さんは、戦地から戻ると、徐々に精神を病み、家族はその激情の濁流にのみこまれていったのだった。石松さんと幼い美千代さんや家族に起きた出来事――。
