その日の午後、現場から遠く離れた地方の交番に「男性を刺しました」と言って、麻衣が出頭してきた。所持品のバッグから、新聞に包まれた血の付いた包丁が見つかった。麻衣はその場で逮捕されたが、その動機を聞いて警察官も仰天した。

「イライラしたので人を殺したかった」

「仕事や恋愛がうまくいかず、イライラしていたので人を殺して鬱憤を晴らしたかった。確実に殺したかったので、障害者を選んだ」

 山田さんと麻衣は事件の3日前、障害者同士の交流サイトで知り合った。

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〈私は15年前に離婚し、息子たちと生活しています。13年前に交通事故で脊髄を損傷し、車椅子の生活になりました。女性の友達が欲しいです〉

 こんな山田さんの書き込みを見て、接触してきたのが麻衣である。

〈22歳のフリーターです。私も精神障害があります。よかったらメル友になりませんか?〉

 山田さんは自分がバツイチの53歳であるということも話したが、麻衣は〈全然大丈夫。お食事でも行きましょう〉などと誘ってきた。

〈麻衣さんは一人暮らしなの?〉

〈いえ、実家です。医者の父と専業主婦の母、医大生の妹と4人暮らしです〉

〈へぇ、すごいね。エリート一家じゃないですか〉

〈それがちっとも良くないんですよ。父とはずっと仲が悪いし、私の障害のことも理解せず、隠し続けた方がいいと言っています〉

〈でも、親御さんとしてはお婿さんをもらって、跡継ぎが欲しいんじゃないですか?〉

〈そんなことありません。それより私、山田さんのことが気に入りました〉

 山田さんが何を言っても否定せず、何度もメールを送られるうち、山田さんも急速に麻衣に惹かれていった。