シマケン(佐野晶哉)か、虎太郎(小林虎之介)か——主人公・りん(見上愛)を取り巻く男性たちにも注目が集まっている朝ドラ『風、薫る』。りんのモデルとなった大関和にも、現実に求婚してきた“年下のボーイフレンド”がいた。

「普通選挙」を求める活動の中で逮捕され、獄中にいた彼からのプロポーズに和はどう応えるのか。『風、薫る』の原案となった評伝小説『明治のナイチンゲール 大関和物語』(中央公論新社)より抜粋して紹介する。(全4回の4回目)

『風、薫る』公式Instagramより

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獄中の彼から突然のプロポーズ

 結局、木下尚江は無罪となった。出獄を間近に控えた面会時、尚江は和に結婚を申し込む。

「あなたが通い続けてくれたこの10カ月、とても幸せでした。もっとここにいたいくらいです」

 好意を感じてはいたが、まさか結婚を申し込まれるとは思っていなかった和は驚いた。

 押し花のときと同じ看守が、呆気に取られている。返事に窮した和は立ち上がり、一礼すると面会室をあとにした。

「ここを出たら真っ先に東京看護婦会へ行きますから、そのときお返事を聞かせてください!」

 尚江の声が追ってくるので、和は駆け出した。

 相馬愛蔵を通じて尚江を知っていた妻の黒光は、尚江の和に対する好意について、こう記している。

「木下氏の愛の好みに大関女史ほどはまった人はなかった、と少なくとも私には考えられる。もっとも私にそういう直感が働くようになったのも、はるかに年経て後のことで、それにもやはり折々聞いた氏自身の自白が利いたというほかない。氏はよく自嘲するような持ち前の、あの明らかにわざとらしさのある調子で言った。『人形のような小娘はつまらないが、中年の女はその熟した智恵が面白い』と。容貌、情熱、年齢、当年の大関女史はまさに木下氏の再び得がたい対象であったといえよう」(『穂高高原』)

 和は、外濠にかかる鍛冶橋を渡ったところで走るのをやめた。息を整えながら考える。

 尚江の好意はうれしいが、結婚の申し込みを喜んでいいものなのかどうかがわからない。

 一度目の結婚は散々であった。しかし、自分の中に、結婚に対する強い憧れがあることも、また確かだ。