すぎやまこういちからのハガキ

 彼らがそのクレバーなまわり道をしていたころ、他にも奇跡的な出会いが続きました。コンテストでも活躍した森田和郎さんがエニックスから発売した将棋ゲーム『森田和郎の将棋』の商品アンケートハガキで「すぎやまこういち(*4)」という差出人名の一通が届いたのです。

*4 東京都出身。フジテレビ在籍時には「ザ・ヒットパレード」等を担当しつつCMも作曲。退社後にはザ・タイガースの楽曲やアニメ・特撮の音楽を手がけ、活動範囲はケタ外れ。2021年に90歳で没。

 すぎやまこういちさんは、この時点ですでにザ・ピーナッツ、ザ・タイガースといった有名ミュージシャンを何組も世に送り出し、「亜麻色の髪の乙女」などヒット曲を多数かかえた有名作曲家でした。まさかそんな大御所がPCゲームのアンケートハガキを? とエニックス社員たちも困惑したようですが、結果的にこのハガキはまぎれもなく当人が送ったものであり、すぎやまさんは大のゲーム好きだったということが判明したのです。

 今では大御所有名人でゲーム好きな方は加山雄三さん、鈴木史朗(*5)さんをはじめ何人もいらっしゃいますが、当時の感覚としては非常に珍しいことでした。千田プロデューサーはこの縁を活かしたいと考え、すぎやまこういちさんにドラクエの音楽を依頼することになります。まだ出来立てホヤホヤの新興メディアであり、世間からは低く見られがちだったテレビゲームの音楽をすぎやまこういちさんが担当したことは、その後、テレビゲームの文化的地位を向上させていくひとつの要因にもなりました。

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*5 1938年生のフリーアナウンサー。筋金入りのゲーマーで、テレビで『バイオハザード4』(当時69歳)をプレイした際に「手榴弾で一応ぶっ殺しときます」といいつつ高スコアを叩き出していた。

異端の編集者、鳥嶋和彦

 これに加えて大きく関わるのが、当時の「ジャンプ」における鳥山明さんの担当編集者であり、『Dr.スランプ』に登場する悪役キャラ「Dr.マシリト」のモデルとしても知られる鳥嶋和彦さんです。

画像は集英社公式サイトより

 ライターとしての堀井さんにジャンプの読者ページやゲームの紹介ページを依頼していたのも鳥嶋さんであり、一種の「マンガ至上主義」に貫かれていた当時のジャンプ編集部のなかで、「マンガよりゲームの方が好き」といってはばからなかった鳥嶋さんの存在は非常に異端でした。

 堀井さんとのつながりから『ドラクエ』の企画を聞きつけた鳥嶋さんは「本気でRPGをメジャーに売っていくつもりなら、最初からジャンプと組んで企画を進めよう」と持ち掛けました。これによって、『ドラクエ』は発売前からその開発過程を「ジャンプ」誌上でレポートされ、さらにキャラクターデザインとパッケージイラストを鳥山明さんが担当することが可能になったわけです。

 当時すでに『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』で立て続けにヒットを飛ばし、誰もが知る国民的マンガ家であった鳥山明さんをこのように他社のプロジェクトに関わらせることは、普通であれば担当編集者がもっとも嫌がってもおかしくないことです。それをむしろ積極的に進めていった鳥嶋さんの先見の明が、鳥山明さんにもうひとつの代表作「ドラゴンクエスト」をもたらしたといえるでしょう。