ポケモンを30匹までしか保存できないという問題

 ゲームボーイのソフトカートリッジには、セーブデータの記録用メモリとしてSRAM(*3)というパーツが使われていました。当時のSRAMの容量は8キロバイトが普通だったのですが、この容量ではプレイヤーが仲間にしたポケモンが30匹までしか保存できない、という問題が判明したのです。

*3 セーブデータを保持するための不揮発性RAM(メモリ)。基板に搭載されたボタン電池により、本体の電源オフ時もデータを維持する。『ポケットモンスター赤・緑』以前にも、『スーパーマリオランド2 6つの金貨』などのソフトで採用例がある。

 この「30匹」という数は絶妙に悩ましいラインで、素直にゲームクリアに向けて遊ぶ分には、特に問題ありません。比較対象として、例えば初代ポケモンより後の1998年9月に発売された『ドラゴンクエストモンスターズ(*4)』も、モンスターは20匹しか保存できない(「冬眠」というシステムを利用した場合は最大40 匹)のですが、この制限の中でもモンスターを入れ替えながらプレイすれば、それほど「少ない」という印象はありませんでした。

*4 エニックスから発売されたゲームボーイ用RPG。『ドラゴンクエスト6』の登場人物・テリーの幼少期を描くスピンオフ作品。モンスターの収集・育成という要素は「ポケモン」と共通するが、お馴染みの魔物同士を掛け合わせてより強い個体を生み出す「配合」システムが独自の中毒性を確立した。

 実際に発売されたポケモンでも、レギュラーメンバーとしてゲーム攻略に使うのはそのぐらいの数であることが多いので、シナリオクリアには全く問題ない。しかし、このゲームの最大の楽しさがポケモンのコレクションであるとしたらどうなのか? これはなかなか難しい価値判断になります。

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写真はイメージ ©︎siro46/イメージマート

 そしてさらに悩ましいことには、実はポケモンにプレイヤーが個別の名前をつける(例えば「ピカチュウ」は「犬」「猫」のような種族名なので、捕まえたピカチュウにプレイヤーが自分なりの「ピカっち」「ピカたろう」のような名前をつける機能)を諦めさえすれば、保存できるポケモン数はずっと増やせる、という選択肢もありました。しかしこれもやはり、それぞれのポケモンに思い入れをもって育成してもらうためには、プレイヤー固有の名づけ機能はオミットしたくない……。

 この悩ましい問題にブレイクスルーをもたらしたのは、任天堂のゲーム開発における中心人物、宮本茂さんでした。仕様に悩む田尻さんたちゲームフリークのメンバーに「それで劇的にゲームが変わるのであれば、SRAM容量を32キロバイトに増やしましょう」という提案があったのです。この判断はソフトカートリッジの製造原価を上げることに繋がるため、同じ定価で販売すると仮定すれば、単純に発売元の利益を減らすことになる選択でもありました。その意味で、ソフトメーカーであるゲームフリークには不可能で、当事者の任天堂側にしかできなかった判断だといえます。