そして個人的に最も興味深かったのは、夜の晩餐会でトランプ氏が選んだ、ミッドナイトブルーに赤と白のマイクロスクエア柄のネクタイだ。
ミッドナイトブルーは昼の光では黒っぽく沈むが、夜の照明では深い青が静かに浮かび上がる。さらに赤と白の極小の正方形柄が規則的に並ぶこの柄は近距離では繊細な情報量を持つ。
英国的な「目立たないが高貴で品格がある」という美学で晩餐会という空間に相応しいネクタイだが、トランプ氏がこのタイプのネクタイを締めているところはほとんど見たことがない。自分のスタイルに寄せてきた習氏との明確な格差を示す“静かな牽制”の意図が読み取れた。
高市総理相手には見せなかった、習近平の“マウント受け入れ”
もう1つ、両者のスタンスが明確に表れたのが「握手」だった。
今回の一連の会談の中で、両者は幾度となく握手を交わした。その中でトランプ氏は常に、ほんの少しだけ相手を自分側へ引き寄せ、握っている右手を左手で軽く叩く仕草を見せていた。
握手では握っている右手よりも左手にスタンスが表れるもので、非言語コミュニケーションにおいて左手を添える行為は「自分が関係性をコントロールしている」というメッセージになる。対等に見せながら、主導権を示す技術である。
習氏はこのトランプ氏の“マウント”を感じつつも、されるがままになっていたが、その姿は昨年の日中首脳会談で高市早苗首相を相手に見せた習主席の握手とは対照的だった。
高市首相との公式会談での握手時に習氏は厳しい表情を崩さず、とても冷たく距離感の遠い握手だった。握手後に高市氏を左手で示しながらも視線を合わせなかったことと合わせて、習氏が「日本を格下に位置づけている」と見せつけたいことがありありと伝わってきた。
とりわけ、中央権力の存在しないアナーキーな国際社会において、国家は常に不確実性の中で他国との関係を調整し続けている。
握手の仕方、立つ位置、視線、スーツやネクタイの色などの非言語コミュニケーションは、単なる儀礼ではない。
「相手とどう向き合おうとしているのか」が表れる貴重な情報源であり、それを調整することによって相手の認知をコントロールすることさえできる。使い方によっては信頼関係を築く手助けにもなり、逆にマウント合戦にもなる武器なのだ。
米中のトップ会談で飛び交っていた「言葉にならないメッセージ」には、2つの大国の関係がはっきりと映されていた。
