ミュージックビデオの枠を超えたれっきとした「映画」だった
ベイカーのほかにも撮影のロバート・ペインターや音楽のエルマー・バーンスタインなど、主要スタッフは『狼男アメリカン』にも参加した映画畑のメンバーが集結。衣装はランディスの妻デボラ・ナドゥールマンで、真紅のスリラー・ジャケットも彼女がデザインしたものだ。うねうねと動く血文字のようなタイトルは、コマ撮りを中心に活動するSFX工房キオド・ブラザーズが制作した。撮影が行われたのは83年10月でメインユニットの撮影期間は4日。主要ロケ地イーストロサンジェルスには400人ものファンが詰めかけたが、大きなトラブルもなく撮影は完了した。
通常MVはアルバムの曲をそのまま使うが、ランディスは曲の構成を組み換え、プライスのナレーションも中盤に移動。ダイナミックで力強いイメージにリミックスするなど、映画らしく作り変えた。当時マイケルが信者だったエホバの証人から内容が不謹慎だとクレームがついたが、冒頭に「この映画に出たからといって僕は決してオカルトを信じない」というマイケルのメッセージを入れることでかわし、約14分の『スリラー』が完成した。
MTVでの放映に先立つ83年11月14日、ウエストウッドのクレスト・シアターで『スリラー』のプレミア上映が開催。アカデミー賞を狙っていたマイケルとランディスは、当時の受賞資格「1日3回以上、7日間連続での有料上映」をクリアするため、長編映画の併映としてその後も劇場公開を行った。アカデミー賞ノミネートは果たせなかったが、『スリラー』はまぎれもない映画だったのである。



