「普通って何ですか?」

坂井 そして2つ目は「普通」という概念への疑念です。退学が決まった時、教師から「お前、どうして普通になれなかったんだよ」と言われたんです。私が「普通って何ですか?」と聞き返したら、彼は答えなかった。「普通」を知らない人が、普通という概念で人を裁いていた。その瞬間に「世の中の道徳とか“良いとされている設定”は虚構なんだ」と思ったんです。

坂井風太さん ©佐藤亘/文藝春秋

 自分が教師から異常者扱いをされたことで、「じゃあ異常って何だろう」「なぜ人は不正を犯すんだろう」と突き詰めるようになり、高校1年生ぐらいの時から、良い・悪いを根本から問う倫理学の本をたくさん借りて考えるようになりました。

――この中学退学という事件が、後の坂井さんの考え方に大きく影響していたんですね。

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坂井 「『闇落ち』しそうになったら、誰かの『おかげ』を思い出せ!」という章にも書きましたが、そこからはグレずにすごく品行方正な正義漢になりました。高校受験のために公立中学の生徒しかいない塾に夏から入ったんですが、急に「栄光学園から来たすごい奴がいる」という謎の状況になって(笑)。いじめられたりすることは一切なく、みんな面白がってくれて、すごく仲良くなったんです。だから「1回レールを外れたと思っても、見てくれている人はいるんだ」と、反省して自分の面白さに変えようと思えました。

スクールカースト最下層→東大受験に失敗

――その後、神奈川県立横浜翠嵐高校に進学されます。高校生活は順調でしたか?

坂井 いや、全然順調じゃなかったですよ(笑)。翠嵐は少し変わっていて、ダンスが上手いかどうかでスクールカーストが決まる高校なのに、僕は椎間板ヘルニアを患っていたこともあって、カーストの最下層としてずっと図書館に引きこもっていました。三島由紀夫や大江健三郎の文学や、サルトルなどの哲学書も読み漁りました。

坂井風太さん ©佐藤亘/文藝春秋

――三島由紀夫や大江健三郎に没頭している高校生はなかなか鬱屈としているでしょうね。大学受験は?

坂井 大学受験も挫折ですね。高校時代、成績はほぼトップだったから、「じゃあ東大に行けばいいだろう」と思って。当時付き合っていた彼女が東大志望だったことにも影響されて、東大法学部を目指すことにしました。

 模試でA判定やB判定が出ていたから自信満々で、母を連れて合格発表を見に行ったんです。電車の中でも合格最低点を確認して「余裕じゃん」とか言っていたのに、掲示板を見たら「あれ? 番号がない」。帰り道はめちゃくちゃ辛くて、母には申し訳なかったんですけど「ちょっと辛いから違う車両で帰る」と言って、ひとりで帰りました(笑)。でも彼女に「落ちてた、どうしよう」とメールしたら、「関係ない」って返ってきて。それで「あ、関係ないんだ」と復活して、合格した早稲田大学へ進学しました。