生成AIの進化で、人生で積み重ねてきたものが瓦解
――牛尾さん自身も失敗しましたか?
牛尾 もちろんです。本格的なAIエージェントの開発チームにコントリビューターとして加わって、デモを作り上げて、幹部にも披露して手応えを感じていたんですが、いつの間にか基盤のアーキテクチャが変更されていたことがありました。だから僕が半年間かけて実装までもっていったある機能が、全部海の藻屑と消えた!
もうそのくらい現場はカオスで、チームの統制も取れていなかったんです。そうやって根本的なところから前提がひっくり返ったり仕様もどんどん変わるから、膨大な時間をかけて取り組んでいるわりにさっぱり成果が出ない、という状況がしばらく続きましたね。
――そんな中で各社のAIエージェントが大きな進化を遂げるわけですよね。
牛尾 はい、とくに2025年末あたりからのAIエージェントの著しい進化には、本当に衝撃を受けました。当時、僕がつくっていたインシデント対応のAIツールは設定がやや複雑で、なかなか普及しなかった。ところが、新しく出たコーディングエージェントが、似たようなことをものすごく柔軟な方法でやってのけたんです。僕がずっと欲しいと思っていたクオリティを、いとも簡単に出してしまった。
今まで僕が人生で積み重ねてきたものが、一瞬で瓦解する感覚でしたね。もう人間のプログラマーはいらないのかな?と。僕はなぜエンジニアをやっているかというと、「手を動かしてつくるのが好き」だからです。スポーツでも見てるよりやる方が好きだし、音楽も聴くよりも演奏する方が好き――そういうプログラマーにとって、コーディングエージェントは、自分でつくる喜びを奪ってしまうわけです。
しかもAIエージェントはものすごい能力で、超速で進化していくから、エンジニアとして自分には何のバリューがあるのか、まったくわからなくなってしまった。
――ちょうどマイクロソフトの大規模なレイオフもありましたよね。全世界で1万5000人規模の人員削減は、大きなニュースになりました。
牛尾 そうなんです。もういつクビになるかわからないし、せっかく抜擢してもらったのに成果が出せなかったから、毎週のように悩み抜いた非常に辛い時期でしたね。
「インサイトには価値があるよ」というマネージャの言葉
――そんな苦しい状況から浮上できたきっかけは何だったんですか?
牛尾 僕がエンジニアとしてアイデンティティ・クライシスに陥っていた頃、マネージャのヴァラッドから「コーディング自体に価値はなくなっても、インサイトには価値があるよ」と言われたんです。
AIエージェントが来て、コーディングの多くを担えるようになった今、エンジニアからコーディングを取ったら何が残るのか? という本質に気づかせてくれた言葉です。正確には、その意味が本当に腹落ちしたのはもう少しあとですが、僕が本気でAIエージェントを使い倒してやろうとジャンプインする契機となりました。AIエージェントを徹底的に使い倒してやろう、これでもう駄目なら日本に帰ろうとまで決意したんです。
――まさに崖っぷちでの決断でしたね。
牛尾 AIに全ベットすることにしたのも、未来は予測してもあまり意味がないし、どうなるかは誰にもわからないから。過去1年間の業界の動きを冷静に見てみると、明らかにもう訳のわからない異次元のことが連続して起こっているんですね。これがうちの社のバリューだと注力したものが、競合の技術革新で、軌道修正を余儀なくされることが毎週のように起こる。プロジェクト中止も珍しくなくて、せっかくつくり上げたプロトタイプも無駄になってしまう。
でもその時に思ったのが、変化が激しいさなかではロングスパンで考えて計画しても意味がない。でも、少なくとも今後5年間は、AIエージェントをゴリゴリに扱えるやつがバリューを出せるはずだと確信したんですね。
