──私は世代的に後追いで、初めて見たのは「BAD」のMV、ソロとして初来日した頃です。「かっこいい」を通り越し、「なんだこれは?」という未知との遭遇状態でした。上野さんと同じで、見たことのないものを見てしまったという感覚です。そういうマイケルのオーラってどこから来てるんでしょうね。
上野 私が思うマイケルの凄さは、「青は藍より出でて藍より青し」という中国の諺に集約されます。どういうことかというと、彼はたくさんのジャンルの頂点をすべて踏破しました。しかしそれだけにとどまらず、多様なジャンルからの学習を繰り返して、先人たちを凌駕する新しいルートを作ってきた。そうした歴史の深さを背負っているんです。ムーンウォークならジェフリー・ダニエルだったり、ポッピンというジャンルならポッピン・タコ、ブガルー・シュリンプといった人たちから吸収していった。そうかと思えば、視野を変えてフレッド・アステアからミュージカルの原理を学んで注入した。さらにはソウルミュージックに戻ってジェイムス・ブラウンの足さばきや音楽性も取り入れるようになったという具合に。それが新しい見せ方、スタイルに結実したわけです。芸術から数学、科学に至るまであらゆる学問を追究して、独自の理論を生み出した学者のような存在だと言えるでしょうか。
──いうなれば、ポップス界のレオナルド・ダ・ヴィンチですね。
ポップスを極めたマイケル独自の方法論
西寺 その流れで行くと、クイーンとのエピソードが浮かびますね。マイケルは楽曲そのものに対しても同様の発想を持っていたんです。ジョン・ディーコンが黒人音楽に大きな影響を受けた「地獄へ道づれ」という曲を作ったときに、「ディスコ的過ぎる」とロジャー・テイラーやブライアン・メイは抵抗したそうなんですね。でも、マイケルが「絶対シングルカットしたほうがいいよ」と進言した結果、バンドにとってアメリカでの最大のヒットに。すると、その後にマイケルもクイーンの持つロックバンド的なシンプルさを逆輸入したような「ビリー・ジーン」や「スムーズ・クリミナル」を作る。先入観を除いてアイデアを交換しながら、面白いものを生み出す。人種や年代など様々な理由で分離してしまったジャンルのシナプスをつなげる。そうやってマイケルはあり得ないと思われていたことをあり得るようにしてきたんです。違う山だったものをミックスして真っ平らな更地にしたのは、マイケルの功績かと。



