──なるほど。黒人と白人それぞれの表現や技術的なイディオムを融合させて、ひとつの分かりやすい形で示したものがマイケルの音楽であると。だからこそキング・オブ・ポップと呼ばれるんですね。西寺さんの言う「シナプスをつなげる」という作業は、マイケルのダンスからも見て取れるものなのでしょうか?
上野 はい、随所に表れています。ストリートダンスの魅力のひとつに、グルーヴという流線的なノリがあります。マイケルはそこに動きを止めるシルエットという概念を明確に加えた。フレッド・アステアが体現する白人的なミュージカルのパッと止める仕草と、マイケルが元から持っているスタイルが合致したものです。そこからダンスの表現にさらなる新しさが生まれました。フレッド・アステアをオマージュした「スムーズ・クリミナル」であったり、ジーン・ケリーの『雨に唄えば』(52年)のようなシーンがある「ブラック・オア・ホワイト」であったり、マイケルにはミュージカルとの接点があることを痛感します。
西寺 ミュージカルの影響は大きいですね。人気が出過ぎて映画館に通えなくなったマイケルは、自宅の映写室で『ウエスト・サイド・ストーリー』(61年)など、過去の名作に没頭したそうです。かなりレアな経験です。
マイケルは歌が「下手」になった?
──なるほど。となると、シルエットで動きを止めるというダンスの革新性は、マイケルのボーカルにも当てはまるのかなと思いました。しゃっくりみたいに音を区切るあの歌唱法は、みんなモノマネしますよね。
西寺 マイケルは『スリラー』あたりから、歌い方を完全に変えました。それまでは純粋に「超絶に歌の上手いソウル・シンガー」。アレサ・フランクリンからホイットニー・ヒューストンにつながるような黒人音楽“歌手”の系譜の中にいた。だから『BAD』以降、「なぜ変に下手になったんだ。子供の頃や『オフ・ザ・ウォール』までは超上手かったのに」と言う人が、僕の周りにもいました。でも実際には発明だったんです。彼はジェイムス・ブラウンの影響を昇華させ、歌の上手さを感じさせる要素を削り、声をピッと止め、リズムにオンタイムでバシッと乗せた。「ダッ」「チキッ」という擬音のような声で、流麗な流れをジグザグに切る。革命的な歌唱スタイルは、ダンススタイルの変遷とも重なりますね。
──飽くなき探究心と大きなビジョンから生まれる遊び心こそが、ワン・アンド・オンリーたる所以。マイケルってとことんクールを極めた人なんですね。
西寺 でも、90年代初頭にマドンナから「あなた、今、めちゃくちゃダサいわよ」とツッコまれたことも忘れちゃいけない(笑)。トレンドに乗って変化したマドンナと、独自の美意識を突き詰め「これぞマイケル」というオリジナルな記号を作ったマイケル。時が経てば当時感じた「ダサさ」をも超越していく。それこそがマイケルの偉大さだと。
にしでら・ごうた 1973年、東京都生まれ。1997年に「NONA REEVES」のシンガー、ソングライターとしてメジャーデビュー。以後、音楽プロデューサー、作詞・作曲家としても少年隊、SMAP、V6、岡村靖幸などの多くの作品に携わる。音楽研究家としても知られ、特に80年代音楽の伝承者として精力的に活動。マイケル・ジャクソン、プリンスなどの公式ライナーノーツを手がけるほか、『マイケル・ジャクソン』(講談社現代新書)など著作も多数。
たかひろ 1981年、東京都生まれ。本名は上野隆博。2006年にアメリカのコンテスト番組『Showtime At The Apollo』に出場し、9大会連続優勝を達成。09年にはマドンナのワールドツアーに専属ダンサーとして参加、同時に振付家としての活動を本格化させる。以降、大阪世界陸上開会式、櫻坂46などアーティストの楽曲、CM、舞台作品などの振付を担当。現在は大阪芸術大学客員教授を務めるほか、ダンスバトル審査員、解説者としても活躍している。
INTRODUCTION
史上最も売れたアルバム『スリラー』を生み出し、革新的なダンスで音楽と映像表現の概念を塗り替え、この世を去ってなお“キング・オブ・ポップ”として不滅のアイコンであり続けるマイケル・ジャクソン。本作では彼の幼少期から世界最高のエンターテイナーに駆け上がる過程にあった葛藤、そして天才ゆえの孤独を、マイケルが遺した27もの名曲とともに描く。監督を務めるのは『トレーニング デイ』(01年)などで知られるアントワーン・フークア。主演はマイケルの甥にあたるジャファー・ジャクソン。
STORY
野心家の父のもと幼少期からレッスンに励み、兄弟とともにジャクソン5の一員としてデビューしたマイケルは、天才的な歌唱で一気にスターダムを駆け上がっていく。やがて青年となった彼は、名プロデューサー、クインシー・ジョーンズとの出会いを契機にソロアーティストとして音楽的創造性を爆発させてポップシーンを席巻、全世界の寵児となる。しかしその栄光の陰には、強権的な父の呪縛、そして早熟の天才ゆえの孤独があった──。
STAFF & CAST
監督:アントワーン・フークア/出演:ジャファー・ジャクソン、ジュリアーノ・ヴァルディ、コールマン・ドミンゴ、ニア・ロング、ケンドリック・サンプソン、マイルズ・テラー、ローラ・ハリアー/2026年/アメリカ/127分/配給:キノフィルムズ/®, TM & © 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.






