試作品1号は卵はとけたが、何の変哲もないステンレスの平べったい棒で無粋だった。そこで試作品2号として、利根さんは持ち手に猫をあしらったものを作ったが、涼子さんからは「持つと手が痛い」とNGが出てしまう。

試作品3号は、手が痛くないようにとフチの部分を丸く削って仕上げた。アイスクリームのスプーンのような形で、卵をとくための線を先端に3本備えたため、かき混ぜる効率が格段に向上。しかし、涼子さんからは「短すぎて卵液が指についてしまう」というフィードバックがあった。

それらを踏まえて、全体を長くし、立体感を持たせた試作品4号は洗練されたデザインに仕上がった。ところが、涼子さんに「持ち手の穴が変」と言われ、再び修正することに。デザインはもちろん、厚みなどの細かな調整を積み重ねていった。

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妻のアイデアと夫の技術の集大成

こうして、「ときここち」はいくつもの試作品を経て、2018年の秋に完成。

ただのステンレスの棒だった1号から格段の進化を遂げた5号には、パッと見ただけではわからない細かな工夫が各所に施された。温かみが感じられる丸みを帯びた形、持ちやすさや使いやすさにつながっている重量バランスの良さ、本体が湾曲しているのでテーブルに平置きしても手に取りやすい……などである。

あまりの出来の良さに「これは商品になる」と思った利根さん。じつは、涼子さんは、最初から商品化を考えていたわけではないものの、頭の片隅に「会社が危機であること」「夫が『いつか人の役に立つ自社製品を作りたい』と言っていたこと」があって発案したのだという。

つまり、涼子さんの「卵を均一に混ぜられる調理器具がほしい」という夢と、利根さんの「自社製品を作りたい」という夢が同時に叶ったのだ。

「本当に最高だと思いました」と涼子さんは微笑む。

量産の段階で破損品が大量に発生

その後、ある経営セミナーで、利根さんが持ち歩いていた「ときここち」に興味を示してくれた人がいて、そこから人脈が広がり、池袋・東武百貨店で行われる「職人展」に出品できることになった。