デパートに出品するなら、それまで数本単位でしか作っていなかった「ときここち」を量産する必要がある。ところが、量産するとなると大きく勝手が異なることが判明し、破損品が大量発生してしまった。原因を突き止めて品質を安定させるまでの過程は本当に苦労が多く、「この時が一番大変だった」と利根さんは振り返る。

いざ始まった職人展では、用途のはっきりした宝石や帽子などが並ぶなか、謎の調理器具・ときここちは異彩を放った。かくして、トネ製作所のブースにはひっきりなしに人が訪れた。しかし、これは新たなピンチであった。接客に当たる社長の利根さん、息子で専務の祐樹さんは販売経験がなかったことに加え、大変な口下手なのだ。来場者の質問に対して、親子で「社長、これってどうなんでしたっけ?」「えーっと、これはねえ……」としどろもどろに。

一方、「こんなの一生に一度のことだろうから」と記念撮影のために来場した涼子さんは、大勢のお客さんに囲まれて困っている夫と息子を見て、急きょ販売員として入ることにした。専業主婦で販売経験のない涼子さんだったが、自身がときここちを使ってきた経験を交えて詳しく説明した結果、主催者から「MVP」と称されるほどに大活躍。初の展示販売会で、目標の300本を上回る315本を売り上げたのであった。

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ときここちによる卵かけご飯の魅力

さて、取材中に「ときここち」を使ってといた卵の「卵かけご飯」をごちそうになった。ときここちの先端で黄身の数カ所をつついて穴を開け、あとは左右に振るだけでよく混ざるという。「コツは勢いよくやること」という利根さんの助言に従って手を激しく動かすと、卵がすんなり混ざっていく。ときあがった生卵は、白身がまだらに残ったりせず、黄一色でサラサラの状態に。

これをご飯にかけると、卵はお椀のすみずみまで浸透し、食べ終わるまでずっとジューシー。箸でといた普通の卵かけご飯は一部が濃かったり一部に卵が行き渡らなかったりするものだが、これはまさに「ときここち」だからこそなせるわざだ。