「私だよ、響子だよ、わかる?」母・佐藤愛子が亡くなったときのこと

響子 亡くなる3日ぐらい前に施設の方から電話がかかってきて、血圧がすごく低くなったので心配だから来てくださいと言われ、それで駆けつけたんですけれども、その時はまだ目を開いたりはしていました。母が私を娘と思わずに自分の姉だという妄想の中にいたので「私だよ、響子だよ、わかる?」って言うと、ちょっと目を開けて目で頷いていましたね。だけどまたすぐにすっと目を閉じて。翌日に行くと、もうずっと口を開けて寝ている状態で目は瞑ったままでした。

 母は元気なころに死ぬ時には手を握っていてちょうだいねと言っていたので、布団の下の手をずっと握ってたんですけど、不意にグーッと手を握り返してきたので「私ここにいるよ、ちゃんと手を握ってるよ」と伝えました。すると、またスーッと力が抜けていったんですけれど目を開けることがなくて。

 お手伝いのKさんが、すりつぶしたオレンジをスポンジに含ませて唇や口の中に入れると、ちょっとうるさげにしている元気がまだあったんです。なので一旦家に帰ったら翌朝の10時くらいに亡くなったという連絡が来ました。それで慌てて駆けつけたんですが、もうずっと目を瞑って開けることはないという最期でした。

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桃子 施設の方から危篤の連絡をいただく前に、母と父が2人で祖母のところに行ったんですが、その時に祖母が虚空を見つめて何にも口をきかなかったっていうふうに言ってたんですよ。

響子 指をさすんだけど、「何? 何が見えるの?」と聞いても答えず、それから手拍子するみたいなことをしてまた指さすという感じで、もう何が見えているのか、何がしたいのか全然わからなくて。その時に間違えて、母の足をちょっと踏んじゃったんですよ。そしたら「痛い」って言って。

桃子 それは言ったんだ。

響子 それは言ったの。それで私が「おばあちゃん、今日1日ね、2時間ぐらい一緒にいるけど、おばあちゃんの声、痛いしか聞いてないよ」って言ったんですよ。それを聞いた夫が笑って、私もつい笑ったんです。そうしたら母がちょっとニコッと笑って「なあに?」と聞いてきて。

桃子 楽しそうにしているのはわかるんだね。