負のスパイラルに陥っていた

豊島 その1年前から手応えがよくなかったですね。自分の中で前に進んでいる実感がなくなり、そこから負のスパイラルに陥りました。

 記憶力はそこまで落ちたとも思わないし、体力も維持できている、でも盤上でのパフォーマンスが悪くなりました。

――それはなぜでしょうか。

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豊島 色々考えましたけど、最終的にはよくわからず、事実を受け入れるしかなかったですね。昔から自己否定に陥りやすく、そういう精神的な部分もあったとは思います。

 過去の自分と比較していいことがないときついんですよ。モチベーションが全くないわけでもありませんが、それを保つのが大変だった1年でした。

©︎細田忠/文藝春秋

――ちょうど、藤井竜王・名人以外にも伊藤匠二冠など、若い世代の台頭がより見られたころだと思います。

豊島 そうなると、相対的にトーナメントプロとしての地位は落ちますが、それを気にしても仕方がありません。もちろん勝負するうえで、自身と比較して戦略を練るのは必要ですが、あまり気にしても仕方がないです。

 長い目で見たら、いずれは成績低下を避けられないということになりますが、そうなったときに自分が将棋をどうやって続けていくかという考え方ができていなかったことが、理由の1つでしょうか。

再浮上を掴んだきっかけ

――ですが、昨年度は銀河戦決勝で藤井竜王・名人を破り、復活の優勝となりました。

豊島 復活できたかはわかりませんけど、それまでの負のスパイラルは止まったかなと思います。自分の中で考え方が確立して、これでやっていこうかなという気持ちが持てました。

©︎細田忠/文藝春秋

――ちょうどご結婚をされたころと思いますが、奥様の影響はあったのでしょうか。

豊島 妻と出会う前に自分の中では調子が悪い時期があって、自分の中で色々と考えたんですけど。成績が悪いとかパフォーマンスが落ちているというのはありつつも、それでも将棋に取り組むことで、盤上への思考に没頭したり、静謐な対局中の穏やかな時間を持つのは自分の中で意味があることを再確認しました。

 それで将棋を長く続けていきたいと考えがまとまり、前向きになれました。

――それ以前はどのようなことがモチベーションだったのでしょうか。

豊島 それまではタイトル戦に出られるうちは頑張ろうと思っていましたが、それができなくなった後にどうするかということに見通しがありませんでした。それが自分の中で確立できたことで、結婚にも前向きになりました。成績が悪くなっても、それに応じた場所で指させてもらえる限りは一生懸命やっていこうと。

 そういう気持ちを持っていることがわかったので、もちろん不確かな面もありますが自分の将来がおぼろげながら描けてきました。(つづく)

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