「口になんかさせるわけないでしょ。手です、手!」

 彼女は勢いよく左手の甲を私の眼前に掲げる。

「なんだハンドキスですか」
「なんだ、じゃないですよ。ふつうに気持ち悪いですから」

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 写真はイメージ ©getty

 両肘を抱えて大げさに身震いする。

「おやつ渡したとき、いきなりチュッですよ。それ、セクハラです。『気持ち悪いんで二度としないでください』ってビシッと言ってやりましたけど」

 なるほど、山本さんに叱責されて落ち込んだ挙げ句、不貞寝していたわけか。

「泣きそうな顔で、持ってたポテトチップスくれました。先生にあげます」

 一生懸命機嫌をとろうとした関口さんの姿を想像して、つい笑ってしまう。

「認知機能も落ちてきたし、脱抑制気味になってるんですかね。言っても忘れちゃうと思うけど僕からも注意しておきます」

なぜ病院でセクハラが起きるのか?

 認知症高齢者のセクハラ行為は病院では茶飯事だ。

 実際、関口さんの頭部CT画像を見ると理性を司る前頭葉がやや縮小しており、衝動にブレーキが利きにくくなっているのだとわかる。セロトニンがこのブレーキに関わるので薬を増やすことで問題行動が減ることもあるが、効果は限定的なことが多い。

 少し薬剤調整をして数週間後のこと。「先生、ちょっと聞いてくださいよ」と、また山本さんである。この前と違って、なぜか半笑いの表情を浮かべている。

「関口さんが別の患者さんの太ももさすったんですよ。しかもすっごい笑顔で」

 やっぱりか⋯⋯。薬剤を増やしても性的な衝動はなかなか抑えられない。

「その患者さん、怒ってませんか?」

次の記事に続く 「ショックとか受けてない?」ほかの患者から“太ももをさすられた”けど⋯被害者が「ノーダメージだった」衝撃の理由