Netflix『地面師たち』でホームレスの老人を演じ、鮮烈な印象を残した俳優・五頭岳夫(78)。

 同作でブレイクを果たし、出演シーンがミームとして使われ、Tシャツにまでなってしまった五頭氏に、医師から進言された俳優引退、42歳での胃がん発覚と胃の全摘、エキストラ俳優へと転身した経緯などについて、話を聞いた。(全5回の3回目/4回目に続く)

五頭岳夫さん ©杉山秀樹/文藝春秋

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顎のプレート不具合や65歳定年制「舞台に立てないならやめます」

――顎に入れたプレートの不具合が続き、医師から舞台俳優を辞めて他の仕事に就くように勧められたとのことですが。

五頭岳夫さん(以下、五頭) 所属していた青年劇場は引き止めてくれてましたけどね。舞台に立たなくても総務や庶務の仕事もあるし、友の会の会員が3000人近くいるから、その応対をどうするかプランを立ててくれないかとも言ってくれました。

 でもイヤでしたね。スポットライトを浴びずに裏方に回るということが、どうしても受け入れられない。後輩たちが舞台で輝く姿を見たくなかったというのもあります。カーッとなりながらも、どうすればいいんだという気持ちでいっぱいでした。

 それに、劇団でちょうど65歳定年制ができたことも引っかかっていました。定年になった役者がその後どうするのか、セカンド・キャリアの道筋が立てられているわけでもない。「じゃあいい機会だ、舞台に立てないならやめます」と決断しました。

転機となったアメリカとヨーロッパでの旅

――その後、海外へ旅立たれたそうですね。

五頭 入院中に病院の白い壁を見るのがイヤになって、病院を抜け出しては映画を見に行ったり舞台を見に行ったりしていました。それでも気持ちが収まらなくて、治療が一段落したら海外へ行こうと決意してたんです。

 最初にアメリカへ行きました。サンフランシスコに知人がいたこともあって、そこを起点にロサンゼルス、ニューオーリンズと回りました。ニューオーリンズは『風と共に去りぬ』の舞台ですから、行ってみたかった。ニューヨークではブロードウェイの舞台をいくつも見て、休演日には足を伸ばしてナイアガラの滝に行ったりして。

 その後、ヨーロッパへ渡って。ローマからヨーロッパの鉄道が乗り放題になるユーレイルパスを使って移動して、フィレンツェ、ベネチア、オーストリア、そしてスペインへ回って。

海外をめぐっていた頃の五頭岳夫さん(本人提供)

 スペインへ行ったのは、何よりもガウディの建築が見たかったから。サグラダ・ファミリアを見たときに、「なんて自分はちっぽけなんだろう」と思いましたね。もっと大きく物事を考えていいんだなと。

 ゴッホだってベートーヴェンだって、耳が悪かったりいろんなことがあった。「どこが健常者でどこが障がい者なのか、境なんてないんじゃないか」と考え始めたのが、あのときでしたね。全部で半年ぐらいの旅でした。