最新刊『部下としてのAI 世界一流エンジニアの進化術』が好評を博する牛尾剛さん。無限に時間をかけて頑張りすぎてしまう働き方をしていた著者が、「どうやったら最も楽にできるか?」というマインドセットへの転換劇を伝える。
(※本稿は、前掲書から一部抜粋したものです)
◆◆◆
頭の回転は標準的だが、仕事がズバ抜けている同僚
仕事の仕方が圧倒的にセンスのいい同僚の話をしよう。私の隣の席に座っているメンターのクリスだ。
彼はポールのような天才肌のエンジニアというよりは、頭の回転は標準的だが、社内で一番成果を上げていて、つくるもののセンスも素晴らしい。彼は、エンジニアの中でもパートナーという役職で、プリンシパルの一つ上だからそのレベルの人は社内ではほとんど見かけないほどの重い立場だ。私よりはるかにバリューを出さないといけない重責を担いつつ、3人の子育てを頑張っている。
いつも本当に忙しそうなので、一体どうやって時間を確保しているの? と尋ねたら、彼はこう答えた。
「それが不思議なことに、時間が無くなるとどうやって賢くやるかを考えるから、できるようになってしまうんだよね」
なるほど。日頃から見ていても、彼の仕事の戦略は明確だ。まず、無駄なものには一切時間を使わない。自分が手掛けてもインパクトが大きくない仕事に対しては時間を割かないスタンスが徹底している。「Be Lazy」(怠惰であれ!)のマインドセットに忠実なのだ。
「より少ない時間で価値を最大化する」
「Be Lazy」とは「より少ない時間で価値を最大化する」というソフトウェア開発の世界でよく言われている考え方だ。優先順位をつけて、一番インパクトの出るものに取り組む姿勢で、生産性の高さを生む秘訣だ。
AIで生産性の水準が上がった今、当然ライバルの開発スピードも非常に速い。頻繁に更新されるので、今までやってきたことが無駄になることが多く、ピボット(方向転換)も激しい。そんな環境下でクリスは、自分の取り組んでいたソリューションのバリューが下がったら、即座にやめて切り替えるのだ。
普通なら、時間をかけてつくったプロトタイプはエンジニアにとって「我が子」のようなものだから、愛着もあるし、少々旗色が悪くなっても懸命にそれを続けてしまうものだ。でも彼は、続けてもバリューが出ないと判断したものはさっとハンドオフする(手放す)勇気がある。その判断が速くて的確なのだ。
こう書くと冷徹なようだが、彼のスケジュールは一日中ほぼミーティングで埋まっている。その激務の中でプロトタイプをつくるのだから必然的な戦略といえる。でも休みの日は気分転換に趣味でコーディングをしたりして、働き方のメリハリが利いている。

