急接近するふたりの女性

 映画はパリにおいて、ふたりの女性が出会うことが物語の起点となる。介護施設で熱意をもって働きつつも、経済状況や人間関係の問題で、理想を追求することへの難しさを感じているマリー゠ルー(ヴィルジニー・エフィラ)と、ステージⅣのがん患者でありながらも、独創的な演劇の作り手として、精力的に活動を続けている真理(岡本多緒)。ふたりが偶然出会い、絆を深めていく過程が、物語の軸となる。

映画『急に具合が悪くなる』

 ふたりの出会いは、マリー゠ルーが自閉症の青年・智樹(黒崎煌代)を公園で見つけたことに端を発する。雨が降る中、智樹を探しにあらわれる、彼の祖父で俳優の吾朗(長塚京三)と、吾朗のひとり芝居を演出する真理。ふたりは智樹を保護してくれたマリー゠ルーに礼を述べ、真理は舞台のチラシをマリー゠ルーへと渡す。

映画『急に具合が悪くなる』

 1週間後、職場でスタッフと衝突し、苦悩を覚えるマリー゠ルーだが、彼女の視界に、真理に渡されたチラシがふたたび入る。マリー゠ルーは「近づいてみれば、誰もまともな者はいない」と題されたその芝居へと足を運ぶ。物語は、イタリアにおいて精神病院が廃絶された実際の歴史に想を得たもので、吾朗演じるバザーリアは、「健康な者は本当に生きていると言えるのか」「不可能は可能になるのか」といったやや観念的な、しかし本質的な問いかけを舞台上で行う。そして終演後のQ&Aの時間で、マリー゠ルーは作中のセリフに関連付け、「不可能なことは可能だと思いますか?」と客席から真理に問いかける。真理は、「不可能なことは不可能です、可能になるまでは」と答え、自身ががんで余命半年であること、しかし、その中でも演劇から勇気をもらい続けていることを重ねて告げる。

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映画『急に具合が悪くなる』

2つの言語で急速に深まる対話

 真理ががんを患っているということは、真理の口調からあまり公にしていないものであることが推察でき、見方によっては、こうした観客の一質問に、ついでのような形で告白を行うことはやや不自然にも思える。しかし、ここで着目すべきは、マリー゠ルーの質問がフランス語ではなく、日本語でなされたものだということである。かつ、マリー゠ルーの質問はたんなる言葉遊びのような問いかけではなく、自身の仕事のうえでの苦悩を投影した切実なものであり、こうした自己開示が、真理の告白を引き出したものと感覚的に納得される。