もちろん、本作の綿密な構築性はセリフのみには留まらず、とりわけ後半になると、いくつもの「余裕」を感じさせる滋味深いシーンが登場する。京都のシーンはまさにその好例で、古い家のなかでじっくりとマッサージをし合ったり、朝焼けを迎えようとする森の中で、カップラーメンを囲みながら会話をする真理とマリー゠ルーの姿に、効率を意識する中では見出せない時間の尊さを見ることができる。このような珠玉の場面から、観客はどのように切迫した状況においても、余裕をもって生きることの重要性を痛感する――いや、柔らかで優し気な作品の吐息から、自然と実感する――ようになる。
とはいえ、画面から得られる楽しみは、観客個々人が能動的に見出すものでもある。そうした体験への過剰なノイズにならないように、本稿はこのあたりで切り上げることにしよう。ただ、最後に付言するとすれば、これから映画に触れる観客のみなさんは、3時間16分という上映時間にひるむ必要はない、ということである。真理とマリー゠ルーの、あえて言えば「短くて長い」旅を目撃した観客には、稀有な映像体験が得られることを約束したい。
『急に具合が悪くなる』
監督:濱口竜介/原作:宮野真生子・磯野真穂著『急に具合が悪くなる』(晶文社)/出演:ヴィルジニー・エフィラ、岡本多緒、長塚京三、黒崎煌代/2026年/フランス=日本=ドイツ=ベルギー合作/196分/配給:ビターズ・エンド/© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners/公開中

