「やめとけ」大企業を辞め、家業に入ろうとした息子たちに忠告したワケ
そうして多忙な日々を過ごしていた2019年、突然元之さんを心臓の病が襲った。命に別状はなかったものの、両親の奮闘ぶりを見ていた2人の息子たちは、これを機に家業に入ることを申し出る。だが、元之さんは「やめとけ」と一蹴した。
「本音は、息子たちと一緒に働けると思ったらうれしかったんです。若い感性が入る期待もありましたしね。でも、先行きが見通せないことを考えると、素直に喜べませんでした。2人とも大企業に勤めてましたし、自分もそうでしたけど、大きな看板が外れたときの精神的な変化を知っているから、余計に心配で……」(元之さん)
けれど、父親の不安をよそに、息子たちの決意は固かった。この決断が、次の大きな波を引き寄せることになる。
2019年、先に入社したのは現在CFOを務める次男の幸祐さんだった。銀行員として6年間、スタートアップから大企業まで、多様な規模・業種の経営者と向き合ってきた。
「銀行員になってから多くの経営者の話を聞く機会がありましたが、なかでも印象に残っていたのが、自社商品について誇らしそうに語る姿だったんです。率直にかっこいいなあと思って。
また、同僚の担当していた企業の経営環境が大きく変化する場面を何度も目にしていました。そのとき、50年続いている家業のすごさをあらためて実感したんです。ほぼ2人で回している事業を、絶対に潰してはいけない。残していきたい。そう思って、迷うことなく決断しました」
現在はCOOの長男・雄哉さんが入社したのは、翌年のことだ。大手放送会社で音楽番組のプロデューサーを務め、日本のトップアーティストのドキュメンタリーやライブ映像を手がけてきた。しかし、一時期からある感情がずっとつきまとっていたのだという。
「アーティストの方がすべてを背負って観客に思いを届ける姿を見ていたら、『自分も信念を持って、直接的に誰かのために感動を届けることができないだろうか……』と思うようになって。
そのタイミングでコロナ禍に入り、娘が生まれたことで自然と『家族の絆』に意識が向くようになりました。祖父からつながれてきたものを、自分も娘につないでいきたい。『これは宿命なのかもしれない』と思ったら、自然と覚悟が決まりました」
それぞれが腹を括って入社すると、そこで驚きの現状を目の当たりにすることになる。
「これは……やることが死ぬほどあるぞ」
2人は苦笑いを噛み殺した。


