「なるほど、マサ」私は控えめながら砕けた口調に切り替え、堅苦しい「孫さん」から短く「マサ」と呼び方を変えた。ワインを分け合うことには、そうさせる力がある。

「でも全部を失ったわけじゃない。それでもまだ億万長者だったじゃないですか!」

 私たちはどちらも声を上げて笑った。

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「ええ、たしかに、わかってますよ、アロック。でも僕は金のことは心配しない。もしかしたら、人からクレイジーだと思われるのは、そのせいもあるのかも。子どもの頃は、何ももっていなかったけど、すごく幸せだった。だから、すべてを失ったとしたって、僕はやっぱり幸せなんですよ」

 彼は一旦言葉を切り、こう付け加えた。

「僕の目標は“人々を幸せに”すること。誰も悲しい思いなんかするべきじゃない。僕はテクノロジーで人々を幸せにしたいんですよ」

 そうして彼は最新の、個人的に入れ込んでいるプロジェクトについて語りはじめた。「感情生成エンジン」をもち、日本の高齢者の相棒となるべく設計された人型ロボット「ペッパー」のことだ。世界で最も高齢化が進み、自殺率も高い国にとってそれは、称賛に値する取り組みに思えた。

©AFLO

 そういえば、ロビーに大きなポスターが貼ってあったが、『スター・ウォーズ』のR2-D2とC-3POを足して2で割ったような見た目だった。うちのゴールデンレトリバーのエリーには素晴らしい感情生成エンジンがあるし、彼女は温かくて、やわらかくて、抱きしめたくなるかわいらしさだ。金属の塊がそれに張り合えるものだろうか? とはいえ、孫はその“幸せ活動”に本気で取り組んでいるようだった。彼が宗教について語るのを聞いたことはないが、彼のテクノロジーへの信仰は熱狂的だった。

アリババに対する愛情と崇敬の念

 ソフトバンクが保有していたヤフー株は、2000年のピーク時には300億ドルを超える価値があった。ところが、ヤフー経営陣による一連の戦略的大失敗(2001年にグーグルを100万ドルで買えるチャンスを逃したことなども含め)がインターネット関連の株価急落と重なり、かつての「最も価値ある仮想不動産」はその価値が崩壊した。ソフトバンクは最終的にヤフー株をピーク時の価値のほんのわずかな金額で売却した。そしていま、保有するアリババのポジション〔取引き成立後に未決済のまま保有している約定〕が9月のIPOによって700億ドル相当に膨れ上がり、同様の懸念が生じていた。

「マサ、アリババ株の売却は検討されてますか?」と私は訊いた。

 すると、あの人懐っこい笑顔が消えた。