ニケシュと私は神妙にうなずいた。
孫にとってフェイスブックを逃したことは――100億ドルの評価額は2021年には1兆ドルになった―明らかに大きな衝撃だった。ハイテク投資では、積極性が足りないことでときに大損を見る。バイトダンス(ティックトックの中国の親会社)の投資案件が舞い込んできたとき、孫の指示は明確だった―なんとしてでも、使えるだけの金額を最大限投資せよ。750億ドルという法外とも思える評価額でもかまわない(彼の直感は的中し、その後ティックトックはエンゲージメント〔SNS上における「いいね」「シェア」「コメント」など、投稿に対して反応したユーザーの割合のこと〕でフェイスブック、インスタグラム、スナップを上回り、Z世代に関しては検索でグーグルを凌ぐまでになった)。
ミルナー氏の予言「AIによって生み出される価値の大部分はマイクロソフトとグーグルが独占するでしょう」
2年後、カリフォルニア州ロスアルトスのミルナーの自宅でプールサイドランチをとりながら、私がこのフェイスブックへの投資について尋ねたとき、彼は控えめにこう答えた。
「ええ、あれは度胸があるように見えたかもしれません。でも私は孫さんより有利な立場にいたんです。ロシアですでにSNSを運営していましたから」。ミルナーは他の国々でSNSの普及と収益化を研究していたことで、フェイスブックが将来的にどれだけの価値をもつか、より正確に予想することができた。このときの会話で、彼はもうひとつ鋭い意見を口にしていた。それは、シリコンバレー内部の人間たちを彼らの土俵で打ち負かしたアウトサイダーとしての彼の評価をさらに裏づけるものだった。私が孫のAIへの執着について尋ねたときのことだ。この元物理学者は予言的にこう答えた。「AIによって生み出される価値の大部分はマイクロソフトとグーグルが独占するでしょう」(“象たちのダンス”とでも言うべきすさまじい動きのなかで、巨大テック企業「マグニフィセント・セブン〔アメリカの株式市場を牽引する主要テック企業であるグーグル、アップル、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)、アマゾン、マイクロソフト、テスラ、エヌビディアの7社のこと。黒澤明監督の『七人の侍』をもとにした西部劇映画のタイトル『ザ・マグニフィセント・セブン』になぞらえた呼び名〕」は、2022年11月のチャットGPT公開後、数か月で時価総額を合計4兆ドル以上も増やすことになる)。
