ザッカーバーグの言うことはもっともだが、だからといって、むごたらしく鶏と一戦交えたり、アメリカ特有の銃への執着に付き合う必要があったのだろうか。奇妙な行動だが、そういうときのイーロン・マスク的弁明というものがある。「私は電気自動車を再発明して、人類をロケットで火星に送ろうとしている。そんな私が落ち着いた普通の男だとでも思ったのか?」。

 ザッカーバーグもスカンジナビア諸国のGDPに匹敵する価値をもつ企業の創業者だ。当然、同じ問いを投げてくるかもしれない。だが、私たちが「イノベーターを妄信」し、奇行は規格外の人物にとって必要な特性だと安易に受け入れるのは、危険な道を行くことになる。これに対して、エアビーアンドビーの創業者ブライアン・チェスキーは好対照の例だ。のちに私はチェスキーとふたりだけで数時間過ごすことになったのだが、彼は落ち着いていて、威圧感のある上腕二頭筋を別にすれば、すがすがしいまでに普通の人だった。

(ちなみにザッカーバーグは“普通”を取りもどすため、2020年に毎年のチャレンジをやめて「長期的な予想」を立てることに舵を切った。そして社のモットーは「安定したインフラで素早く行動せよ」に変わった。ひどく退屈で大人びた響きだ。おそらく、いいことなのだろう。)

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二度と繰り返してはならない“フェイスブックの100億ドルの失敗”

 それよりロマネ・コンティはどうなったのか? もちろん、あれだけの値段なのだから、ひと口飲むごとに、映画『恋人たちの予感』のメグ・ライアンがレストランで居合わせたお客に「彼女と同じものを」と言わせた、あのオーガズムのような恍惚が訪れたはずでは? たしかにロマネ・コンティは素晴らしいワインだが、ある価格帯を超えると、そこはもうほぼコレクターアイテムとしての価値や地位の象徴の意味合いが強い。だが、孫はワイン投資家ではないし、何かを誇示しようとしていたわけでもない。その証拠に、私と初めて会ったとき、私にいいところを見せる必要などなかったのに、DRCを注いでくれた。それにもしザッカーバーグを感心させようと思ったのなら、わかりやすいカリフォルニアのカルトワインのカベルネや、ボルドーの1級シャトーのほうが効果的だっただろう。そうではなく、孫はDRCを飲んでみて気に入っただけで、値段は重要ではなかったのだ。唯一、値段で尻込みしてしまったのが、フェイスブックの100億ドルであり、この失敗は彼を苛んだ。二度と繰り返してはならない失敗だった。

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