ウォーレン・バフェットはチェリーコーク、孫正義はブルゴーニュワイン
カトウさんが再び現れ、今度はボトルを手にしていた。ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)を代表するワイン「ロマネ・コンティ」だ。ラ・ターシュより格上で、ときどきサザビーのオークションに出品され、テスラ車並みの価格で取引されている。私のワイン体験はたいてい、誰とどんな場で飲むか次第といったところだが、ときにはワインそのものが「場」になることもある。驚いたことに、誰もそれに気づいていなかった。私が感謝を込めてカトウさんに微笑みかけると、カトウさんも「わかりました」とばかりに悠然とうなずいた。
予算に縛られないときにどんな飲み物を選ぶかで、その人のかなりのことがわかる。シリコンバレーの成り金たちは、アルコール度数の高い、スクリーミング・イーグルのような贅沢なカリフォルニアのカベルネをがぶ飲みする。いっぽう、孫正義は明らかにブルゴーニュの繊細な味を好んでいた。私はそれが気に入っていた。それは孫の投資スタイルとも一致している。
ウォーレン・バフェットのような「バリュー投資家〔割安銘柄を見つけて最終的に大きなリターンを目指して投資する〕」はお買い得品をあさるが、孫のような「グロース投資家〔企業の利益成長が市場平均よりも高いと期待できる銘柄に投資する〕」は値段をあまり気にしない。その意味で、バフェットがチェリーコークを愛飲しているのは、いかにも彼にふさわしい。
「あるレストランで鶏を絞めたことがあります。それも素手で」
ワインが注がれ、食事が運ばれると、ザッカーバーグが話を始めた。
「マサ、これはたいへんなご馳走ですね、お招きありがとうございます」と彼は切り出した。
「ところで、私のチャレンジについて聞いたことある人はいますか――いない?」
彼は一同を見回したが、みんなぽかんとした顔をしていた。私はぼんやりと思い出した。そういえば、「毎日ネクタイを締めるとか中国語を勉強する」みたいな記事を読んだことがあった。
「じつは、私は毎年、自分にひとつ課題を課すんです。去年はベジタリアンになることでしたが、自分で動物を殺したときだけは肉を食べていいことにしました」
おっと、めちゃくちゃ面白いじゃないか。
「一度、あるレストランで鶏を絞めたことがあります。それも素手で。あれはすごい体験でした」と彼は続けた。
孫は礼儀を保ちつつも「まさか」という顔をし、ニケシュと私は視線を交わした。
「ワーオ!」。孫の発した間延びしたその声は、「ワー」の音が永遠とも思えるほど長々と響いた。「あなたが――鶏を――絞めた?」。孫は信じがたいという顔でザッカーバーグを指さした。
