かつて日本の夏の風物詩とまで言われ、現在は自衛隊の部内教育の貴重な機会の一つとなった「陸上自衛隊 富士総合火力演習」、略して総火演、その季節となった。

撮影=宮嶋茂樹

 小は小銃から大は155mm砲やミサイルまで使用した国内最大の実弾射撃演習、それが総火演である。抽選で一般市民を招き、一般公開していた頃は、その入場券はプラチナ・チケットと言われるほど大人気であった。

 しかし、2020年からのコロナ禍をきっかけに、その一般公開は中止されている。自衛隊には数万人もの一般市民を仕切り、安心安全なプログラムを組む余裕がもはやないのが実情であろう。今後も部内教育を主体とした内容で演習を続け、一般公開も再開する予定がないという。

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国境警備の現場は逼迫している

 部内教育というても、まずは参加部隊の練度維持が最優先。そして各教育隊の新人隊員や防衛大学校の学生、陸上自衛隊高等工科学校(前少年工科学校)の生徒、さらに入隊希望者やその家族なども観客席に招いて、様々な職種や自衛隊への理解を深めてもらう目的もある。

 きっかけこそコロナ禍だが、自衛隊が総火演の一般公開をやめた背景には、日本を取り巻く安全保障環境の悪化がある。国境警備や警戒監視活動に追われる現場は、一般公開はおろか、総火演の開催自体に苦慮するほど逼迫しているのである。

 

 同じ理由で陸上自衛隊は観閲式を、海上自衛隊は観艦式を、そして航空自衛隊も航空観閲式を中止した。観艦式や観閲式は部隊を全国から集める必要があり、それだけで自衛隊は体力を消耗してしまう。それは国防をおろそかにすることに繋がってしまうのである。

エンタメ性あふれる演出が消えた

 総火演も観閲式も観艦式も、一般公開をやっていたときはすごかった。本番・予行演習と毎回数万人を、駅などから最寄りの駐車場や港などまで大型バスでピストン移送。もう、それだけで沿道には数百人もの自衛隊員を交通整理のために配さなければならない。極めつけは、その数万人を駐車場から会場の東富士演習場へ渡すため、施設部隊が静岡県道157号線に臨時橋まで架けていたのである。

 スタンドの下には自衛隊グッズを売る土産物屋や弁当屋がズラリ、どの店にも長蛇の列ができていたものである。我々カメラマンも場所どりの競り合いがあり、まだ夜も明けきらん午前5時には駆けつけていなければならなかったほどである。

 およそ30倍以上の競争率を突破し、プラチナ・チケットを手にしたのは、まさに老若男女さまざまな人々。熱心なミリタリーファンもいれば、耳をつんざく突然の砲声や衝撃波に泣き出すちびっこもいた。