じつはこうした患者同士の交際はありふれているけれども、恋愛はもっとも距離の近い人間関係で、精神科の患者にとって諸刃の剣だ。支え合う関係になって孤独感が減り、病状が安定することもある一方で、期待どおりに反応しない相手に感情的になり、交際が始まった途端に病状が悪化するケースも珍しくない。積み上げてきた治療の成果がジェンガのように一気に崩れることもある。患者同士の男女問題は面倒なのだ。

伊藤英明似のイケメン患者

 統合失調症で入院した大迫さんは30代。細身でスタイルもいい彼女は一見してモデルかと思うほどの美貌だ。彼女には統合失調症による妄想に加えて脱抑制の症状が顕著に出ていた。たとえば、診察中に「先生って私のこと好きでしょ。キスしよ」と突然抱きついてきたり、「私としたいって思います?」と股間を触ってくるなど、性的逸脱行為が目立った。私にばかりアプローチするのではなく、男性看護師には分け隔てないので病状として見境がなくなっていただけである。

 そんな中、40代の須磨さんが入院してきた。髪はロングで彫りの深い、いわゆるソース顔。俳優の伊藤英明似のイケメンで、入院時に女性看護師たちの話題にもなったほどだ。

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 彼も統合失調症で症状がわかりやすく出現している。「電波で攻撃されています。頭にチップが埋め込まれていて考えが奪われるんです」が口癖だ。

 須磨さんが入院して2週間ほどして、彼と大迫さんが病棟のホールで話している姿を見かけるようになった。日を追うにつれ、打ち解けたようで隣同士に座って距離も妙に近い。美男美女ではあるものの大迫さんは薄汚れたスウェット、須磨さんは病衣なので違和感が際立つ。スタッフも気にしながら、彼らの動向を見守っていた。