世界最大のECサイト「Amazon」は、最初からその名ではなかった。創業者のジェフ・ベゾスが1994年の創業当初に付けた“幻の社名”とは? IT記者としてさまざまな有名経営者に厳しい質問を投げかけてきたカーラ・スウィッシャー氏の新刊『世界を壊したビッグテックの悪党ども テック業界“ほぼ”全史の取材録』(訳者:新田享子/発行:講談社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む

ジェフ・ベゾスと現パートナーであるローレン・サンチェス ©getty

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ベゾスはまるで「マングース」

 ベゾスに初めて会ったのは1990年代半ばのシアトル近郊で、会った瞬間に「野生」の二文字が頭に浮かんだ。空港近くの工業地帯にある倉庫を案内してもらったとき、その中を走り回る彼の姿が狂ったマングースのように見えたのだ。

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写真はイメージ

 ベゾスは自社の本社をなぜこの地に置いたのか、その理由や経緯を説明しはじめた。シアトルはシリコンバレーより物価が安く、マイクロソフトやロッキードがあるから技術系の人材に事欠かない。しかも港湾都市なので世界への出荷拠点として理想的だった。

 ベゾスは元々ウォール・ストリートにあるヘッジファンド企業D・E・ショーの上級職に就いていたが、インターネットには可能性があると確信し、後悔するくらいなら、今インターネットで起業してみようと思って仕事を辞め、妻と一緒に車でアメリカ大陸を横断した――のは誰もが知る本人談である。

 開拓者の神話をしのばせつつ、金融に詳しい頭脳明晰な男が元気いっぱいの子犬のように起業熱に駆られた申し分のない物語ではないか。スタートアップ界隈のどちらかといえば粗野な野郎たちとは違い、ベゾスはまるで、多様性重視の国際教育プログラムを運営する非営利団体アップ・ウィズ・ピープルの経営コンサルティング会議から出てきたばかりの人のように見えた。

 幼い頃から科学好きで、高校は首席で卒業、卒業生総代として宇宙生活を勧めるスピーチをした。プリンストン大学では、もちろん、電気工学とコンピューターサイエンスを学んで最優秀の成績で学位を取得し、ファイ・ベータ・カッパという優等生に選ばれた。

 卒業後は通信業界に就職したが、1980年代後半から1990年代初めといえば、多くの聡明な若者が金融業界に進んだ時期で、すぐにニューヨークのヘッジファンドへ転職し、数学の能力が評価されて昇進し、30歳になる頃には上級副社長になっていた。